まず本作の原作漫画である「陽あたり良好!」について少しだけ触れよう。
「陽あたり良好!」は週刊少女コミックで
1980年から1981年にかけて掲載されていたあだち充の少女漫画だ。
ヒロインの岸本かすみは、叔母の家から県立明条高校に通うために引っ越してくるが、
叔母の家は下宿屋になっており、そこには同じ明条高校に通う事になる
4人の男子高校生の高杉、有山、美樹本、相人がすでに居候していた。
かすみは幼馴染の克彦と付き合っていたが、次第に高杉に魅かれていく。
最初からヒロインに彼氏がいたり、特定のスポーツを中心軸に置かず、
学園生活の日常を中心に描いているといった点が
あだち作品としては異色な漫画だった。
「陽あたり良好!」は連載終了から6年後、
「タッチ」の後番組としてアニメ化もされた。
原作がすでに短い話数で終了していた事もあり、
「タッチ」のようなムーブメントを起こすほどのアニメにはならなかったが、
俺様は「タッチ」同様に毎週楽しみに観ていたぜ。
本作、パソコンゲーム「陽あたり良好!」は、
そんなアニメの放送中に発売されたタイトルである。
起動すると高杉勇作の飼っているネコの退助が走ってきてニャーンと鳴く。
このゲームの舞台は原作と同じく下宿屋“ひだまり荘”である。
プレイヤーはここに新たに下宿する事になった学生で、
唯一となるゲームオリジナルの登場人物という事になる。
大家さんから説明を聞いたらフリー行動となる。
下宿は1階と2階があり、
1階はかすみの部屋や風呂場、食堂、居間がある。
2階はプレイヤー含む5人の男子下宿生達の部屋。
最初は誰も部屋にいないので自室で夕飯を待つ。
自室では勉強したり、本を読んだり、
寝て時間が過ぎるのを待つ事ができる。
とりあえずエッチな本でも見るぜ。ムフフ・・。
時間が過ぎると大家のおばさんから食堂に呼ばれる。
ここの下宿は大家さんが作ったものをみんなで食べるのだ。
必然的にみんな集まるので自己紹介大会となる。
相戸 誠はアニメでは「中岡 誠」に改名されており、
ゲームではアニメ準拠となっている。
おかわり何杯もして満腹になったし、
夜まで何をしようかな?
あ、そうだ。原作ではかすみが越してきた日、
風呂場で高杉と全裸で鉢合わせになって騒動になるんだよな。
という事はもしかして俺様も・・
ヒュー!やったぜ!
・・と喜んだのも束の間。
何だかみんなに嫌われてしまった。
だが高杉よ、お前も原作で同じ事してたじゃないか・・。
一夜明けると学校へと登校する事になる。
野球部キャプテンの妹、圭子ちゃんと知り合った。
かすみちゃんは私服で学校に来てしまうほど怒ってるし、
俺様は圭子ちゃんとラブラブ学園生活を目指す事にするぜ!
下宿と学園の毎日を繰り返していくと、
登場人物達とだんだん仲良くなっていく。
かすみちゃんの機嫌もなおってきたようだ。
あとは圭子ちゃんのハートを射止めればバラ色の高校生活が待っているぜ!
そんなある日、俺様は教室にある高杉のロッカーで、とある手紙を見つけた。
何か見つけたら調べるのはアドベンチャーゲームの鉄則だぜ。
俺様がそれを読んでいると・・
今度は圭子ちゃんにも嫌われてしまった・・。
その日から俺様は、勉強だけが取り柄のつまらない高校生活を送るのだった・・。
・・とまあ、こんな感じで下宿生活を進めて、
「陽あたり良好!」のキャラクター達と親交を深めていくと、
彼らの態度が変わっていき、イベントが発生したりしなかったりする。
何日か過ごすと、プレイヤーは親の都合で引っ越してしまうのだが、
ここまでの親交度によりエンディングが変化する。
これって「ときめきメモリアル」に代表される
“学園生活シミュレータ”の原形なんじゃなかろ~か?
「ときめきメモリアル」がPCエンジンでデビューしたのが1994年、
そのシステムの元となったと言われている「同級生」が1992年。
それよりも5年前に本作は産声を上げているのだ。これは隠された功績であろう。
だが、本作は純粋にゲームとして考えるとたいして面白くない。
というのも、毎日毎日同じ事の繰り返し(食事、学校など)はダレるし、
登場人物に女の子はかすみちゃんと圭子ちゃんの二人しかいない上に、
彼女らの親交度を上げても、
既に原作で“意中の人”がいるために恋愛関係が達成できるわけでもない。
健全だ…、健全過ぎる…。
なにより、このゲームの仕組みには大きな欠点がある。
前述した親交度などのパラメータだが、
プレイヤーはその数値を見る事が出来ない。
また、その見えないパラメータでいつ分岐したのかも分からないし、
果たしてエンディングパターンがいくつあって、
自分がむかえた結末は成功なのか失敗なのかも良くわからない。
つまりこれって、
実にリアルな“あだちWORLD体験プログラム”なのである。
すでに察していると思うが、俺様はあだち充作品の大ファンである。
本作の「陽あたり良好!」も数え切れないほど読破している。
あだち作品はゲーム化に恵まれていない。
ラブコメはゲームに向かないし、事件らしい事件が起きないし、
主人公がそれほど能動的ではないからだ。
そうすると、制作側は熱暴走を起こしてファミコン版の「タッチ」のように
上杉兄弟がバットとボールで異世界のモンスターを倒すゲームを
世に誕生させてしまう(爆)。
そんな中でも、本作はあだち作品ののんびりとした世界をゲーム化する事に成功した
珍しいパターンである。
前作となる「タッチ」(88版)に比べてビジュアルも原作に近づいているし、
なによりゲームらしくなっている。(「タッチ」はほぼ紙芝居だった)
俺様のようなファンにとっては、これ以上ないキャラクターゲームというわけだ。
(日常系ラブコメだもんね)
アニメ原作をゲームで再現するとはどういう事かを考えさせられる一本だった。
本作のフロッピーディスクには、
原作の絵とアニメの絵が両面にプリントされており、
ファンアイテムとしても所持欲が満たされる逸品となっている。
ちなみに本作のゲームデザインを担当したのは六月十三氏。
「ジーザスII」「アンジェラス2 ホーリーナイト」(未発売)などで脚本を担当した人だ。
「魔物ハンター妖子」や「センチメンタルグラフティ」の原案でも有名だ。