88ゲーム回想録(29)「アルフォス」

アルフォス
発売元:エニックス
発売時期:1983年6月
定価:4800円(テープ版)/6800円(ディスク版)
対応機種:PC-8801

 


1983年1月にアーケードで登場したゼビウスは、
当時のゲーマーに大きな衝撃を与えた。
そこには次世代ゲームの誕生を思わせるブレイクスルーがあった。

となれば、おのずと「家でゼビウスを遊びたい」という声は出てくる。
このときよく売れていたゲーム機はカセットビジョンだが、
ゼビウスのようなスクロールシューティングを再現するには
あまりにスペックが弱すぎる。
そこで「パソコンでゼビウスを出せないか?」という話になる。
ところがパソコンにはゼビウスを作るのに重要な機能が無い。
それがハードウェアスクロールとスプライトの要素だ。
当時のパソコンで画面が動いているように見せるには
全画面をまるまる書き換えていく必要があり、
スピート感を要するアクションやシューティングは苦手なジャンルとされていた。
ましてや最先端ゲームの「ゼビウス」を再現するなど不可能だと考えられていた。
ちなみにこの1983年という年は、
そのスプライト機能を有するMSXとファミリーコンピューターが登場する。
その前夜となる時期のお話である。

エニックスは何とかPC-8801で「ゼビウス」のようなゲームが作れないかと考えた。
その不可能を可能にする天才プログラマーを知っていた。
それが森田和郎さんである。
1982年にエニックス第1回ゲーム・ホビープログラムコンテストを開催。
すでに天才プログラマーとして名が知れていた森田和郎さんに
エニックスから参加をオファーしている。
そして森田さんは期待に見事応えて「森田のバトルフィールド」というゲームで
最優秀プログラム賞を受賞していた。
エニックスからの「ゼビウスのようなゲームを作って欲しい」という依頼に
森田さんのプログラマー魂は燃えた。
「不可能と言われている事をプログラム技術と工夫で可能にする」
それこそが森田さんのプログラマーとしての矜持を満たすものであった。

 


ゼビウス」を目指して作られたこのゲームであるが、
それほど「ゼビウス」には似ていない。
対空ショットと対地ミサイルを使い分けて進む構成は同じだが、
ビジュアルやステージ構成などほぼオリジナルと言って良い内容である。
だがパッケージやタイトル画面に「(C)NAMCO」と表記があるように、
ナムコの許諾を得ての販売となっている。
これはナムコからクレームを受けてのものではなく、
エニックスからナムコへ「ゼビウスと似た本作を販売して良いか?」と打診したもの。
なぜわざわざそんな事をしたのか?
「これはゼビウスを参考にして実現させたナムコも認めるゲームです」
と知らしめるしたたかな目的があったのではないかと俺様は推測する。

 


テンキーの2、4、6、8で移動。
組み合わせる事で斜め移動も可能である。
Xキーで対空ミサイルを撃ち、Zキーで地上へ爆弾を落とす。

 


ゲームがスタートすると、ヌルーッとした滑らかなスクロールで海岸線が降りてくる。
これはとても凄い事だった!
そして軽快な動きで登場する敵キャラ。
それをショットで片付けていくテンポ感。
前述したように、通常の方法でこれをパソコンで実現するのは不可能。
森田さんは動的に空中物と地上物を表示しながら
スムーズにスクロールさせる技術として、
パレット機能とバンク切り換えを利用する方法を編み出してこれを実現させた。
スピーディにゲームを進行させるために
プログラムのループ命令をほとんど使わずに組むなど、
天才プログラマーの本領を遺憾なく発揮して本作は生み出された。

本作の登場によって様々なプログラマー達を刺激し、
その後に登場するパソコンゲームに多くの影響を与えるのだった。

 

ただ本作「アルフォス」は偉大なる実験作ではあったものの、
シューティングゲームとしては難易度が高すぎるし、
ステージ構成も単調で、「ゼビウス」と肩を並べるような存在では無かった。

 


こちらは「ゼビウス」におけるアンドアジェネシス的な存在の「アルフォス」。
そう、アルフォスは自機の事ではなくボスキャラの事だった。
パッケージにも
「目指すは誰も見たことがない巨大なるアルフォスを破壊すること」
と書かれており、一応の目的はアルフォスの撃破となるが、
本作にエンディングは無く、無限ループでハイスコアを目指すゲームとなっている。
ディスク版ではハイスコアをディスクに保存する事ができる。