
セイレーン
マイクロキャビン
1987年12月10日
7800円
PC-8801mkIISR以降
サウンドボードII対応
このゲームでは迷路のようになっているマップを探索して物語を進めまるが、
以下のログでは移動のみのシーンは省略してまとめている。

その夜はいつになく激しい雷鳴がとどろき、ブキミの森一帯は闇に包まれていた。

そして、何者かの怪しいカゲが・・・・・。

ここはセイレーンの地の入口、動物の国です。


ぶきみの森を抜けて来たプリルは・・・・・
プリル「それにしてもひどい嵐だったなぁ。」

北に道があります。

北の方に移動します。

ここは動物の国の入口を過ぎた所にある広場です。
でも何だか様子が変です。あたりはやけに静まり返っています。

動物の国の広場ですが、何やらたくさんの動物の石像が立っています。
まるで本物のような、見事な出来栄えの動物達の石像です。

よく見ると動物達の石像の足もとには、妹クリスが持っているはずの、
ブルーの宝石のペンダントが落ちていました。
ブルーの宝石のペンダントを取りました。
プリル「こ、これは間違いなくクリスのものだ!」

このとき突然、木の葉かげからバサバサという音がしたかと思うと、
奇妙な赤いコウモリがプリルに襲いかかりました。
プリル「うわあっ、何だ!?」
コウモリはそのまま飛び去って行きました。

目の前にとてつもなく大きな木があります。
高原の真ん中に大きな木が一本そびえ立っています。
凄く大きな木はとても年老いているらしく、今は眠っています。
話しかけても答えてくれません。
プリル「おーい、クリスーっ。」
何を思ったのかプリルは突然叫び出しました。
しばらくすると、大木がしゃべりだすではありませんか。

大木「うーむ、うるさいぞ。」
プリルはびっくりしてしまいました。
プリル「こ、こんにちは。」
でも、大木は何も言ってくれません。
プリル「こんにちは!って言ってるでしょ。」
大木「わしは今眠いんじゃ。とっとと失せろ。
・・・それでなくても昨夜は大変だったんだ。」
ようやく大木はしゃべりだしました。
プリル「おじいさん、昨夜この森でいったい何があったんですか?」
大木はゆっくりと切り出した。
大木「わしにはモルグという名がある。この動物の国では一番の長老だ。
それはそうと、坊主、水をかけてくれないかね。」
プリル「おいらはプリルだ。そんな事よりモルグおじいさん、早く教えてくれよ。」

小川が流れています。
小川の水を汲みました。

プリルは汲んできた水をモルグの足元にかけてやりました。
モルグ「うーむ、いい気持ちだ。ありがとう、プリルとやら。」
プリル「それよりさっき言ってた、昨夜何が起こったのですか?」
モルグ「オオ、ソウジャッタ。・・・実はな、昨夜の嵐は魔王パズルの仕業でな、
ヤツは動物達をみんな石に変えてしまったばかりか、
クリスという女の子をさらって行ったのじゃよ。」
プリル「エッ!?・・・クリスって、・・・まさか。」
プリルは、クリスという名を聞いて驚きました。幼い頃生き別れとなり、
こうして妹を捜す旅を続けているのです。
モルグ「クリスを知っておるのか?」
プリルはクリスの事を大木モルグに話しました。
モルグ「おおっ、そうじゃったのか。
お前さんが、あのクリスがいつも言っておった兄のプリルなのか。
もう1日早ければのう・・・。」
モルグは大変残念がっている様子です。
プリル「クリスは何か言ってましたか?」
モルグ「うむ、クリスはこの動物の国のみんなに慕われておった。
・・・まだ赤ん坊の頃、ちょうど昨夜のような嵐の中、この森に流れ着いてな。
それからここでみんなと一緒に暮らしていたんじゃよ。
それでも微かな記憶の中でいつもお前さんの事を話しておった。
優しいプリル兄さんとな・・・。」
プリル「どうして妹だけさらわれたのですか?」
いても立ってもいられないプリルは、すぐに訪ね返します。
モルグ「それはわしにもわからん。
でも、天上界フェアメルのセイレイなら知っておるじゃろうて。」
プリル「その人にはどうしたら会えるのですか?」
モルグ「そこまではわしにもわからんて。」
プリル「・・・よし、何が何でも助け出しにいくぞ。待っていろ、クリス!」
モルグ「これだけは覚えていてくれ。
パズラードにいる魔王パズルを倒すことが出来れば、
妹クリスを助けられると同時に、
石にされた動物達を元の姿に戻す事が出来るのだという事を・・・。
気をつけて行くんじゃぞ。」


ガサッ・・・

横の草むらが揺れたかと思うと、目の前を何かが横切りました。
プリル「うわぁーっ、何だ?」
プリルの前には、4つも耳がある奇妙なウサギが立っています。
ポトム「やあ。」
プリル「君は誰?」
ポトム「僕かい?僕はね、このセイレーンの世界の時間の主さ。
まだ見習いだけどね。
ところで、君はプリルだろ。」
プリル「どうして僕の名を?」
ポトム「君の事はよく知っているさ。こうして君に会いに来たのも、
とても大切な事を教えてあげようと思っての事なんだ。
・・・ほら、この時計を見て。」

ポトムはマントの下から時計を取り出し、プリルに見せます。
プリル「それは?」
ポトム「これはセイレーンの時間を示す、唯一の時計なんだ。
この決まった角度で下に流れ落ちる砂が、今の通常の時間の流れなのさ。
ところが最近、魔王パズルの勢力が強くなってきたために、
場合によって時間の流れが急に早くなったりするんだ。
つまり砂が垂直に落ちてしまうんだ。
そうなった時には僕が後でその分、時間を止めるのさ。
真横にして砂が流れないようにね。」
プリル「それがどうかしたの?」
ポトム「困るなぁ、そんなに呑気にしてちゃ。
いいかい、これはクリスを助ける上でとても大事なことなんだ。」
プリル「何だって!クリスだって!?」
ポトム「ああ、パズルは明朝きっかりにクリスを我がものにしてしまうだろう。」
プリル「そ、それはどういう事なんだ!?」
ポトム「・・・つまり、・・・。」

そう言いかけたところで、ポトムは風のように去って行きました。
プリル「おーい、待ってくれよーっ。」
ポトム「またどこかで会おーっ。」
遠くでポトムの声だけが聞こえました。

コンコンコンという音が聞こえます。

木の上にキツツキがいます。
プリル「おーい、キツツキさーん。」
キツツキ「ん?何だ、小僧。」
プリル「ちょっと教えてもらいたい事があるんです。」
キツツキ「何だって?・・・その前にカエルのヤツには聞いたのか?」
プリル「いいえ、聞きませんでした。」
キツツキ「だったら先にカエルのヤツに聞くこったな。おいらは知らないね。」

小川の水の淀みにハスの葉に乗ったカエルが流れてきました。
プリル「カエルさん。」
カエル「・・・・・」
プリル「カエルさんってば!」
カエル「これはどうもすみませんでした。取り乱してしまって・・・。」
プリル「ああ、カエルさん、いいですよ。僕は旅の途中のプリルって言います。
それより、さっき大木のモルグじいさんに会ったのですが、
ほとんどの動物達が石にされてしまったようで・・・
カエルさんはどうして無事だったのですか?」
カエル「私達は、あのパズルが襲ってきたときにもう恐ろしくて、
水の底に隠れていたんですよ。
おそらく、パズルの石に変える魔力も、
この水の中にまでは届かなかったようですね。
ですから私達は助かったようです。」
プリル「なるほど、そうだったのか。」
カエル「ところでプリルさん、これからどちらへ?」
プリル「クリスを助けるために、パズラードへ行くところなんだ。」
カエル「な、何ですって!」
カエルは呆気にとられて言葉も出ません。
プリルは自分のいきさつをカエルに話しました。
カエル「・・・そうだったんですか。それはおかわいそうに・・・。
私も何かお役に立てれば良いのですが、
なにぶんこのような状態なもので・・・・あっ、そうでした。
パズルはとても巨大だと聞きます。
あいつを倒すにはそれなりの高さが必要かと思います。
及ばすながら私が、ハイジャンプのヒケツを伝授致しましょう。」
そう言うとカエルは、ハイジャンプの仕方をプリルに教えました。
もともとジャンプ力のあったプリルですから、
これでますます高く飛び上がる事が出来るようになったのです。
プリル「カエルさん、どうもありがとう。それじゃ、行くからね。」
カエル「気をつけて行きなさいよ。」

木の上にキツツキが止まっています。
どうやら木の虫をとっているようです。
木の下には虫が落ちています。
木の下に落ちていた木の虫を取ります。
プリルは拾った木の虫を、キツツキに放り投げてやりました。
プリル「さっきもカエルさんに聞いたけど、パズルが来たんだって。」
キツツキ「ああ、実のところ、おいらも昨夜はとても怖かったんだ。
それでずっと木の穴に隠れていたのさ。」
プリル「それでパズルの魔力が届かなかったんだね。」
キツツキ「ああ、助かったよ。
そうだ、虫を取ってくれたお礼に、この木の実をあげよう。
おいらには食べられないが、お前さんなら腹の足しにはなるだろう。」
プリル「ありがとう。」
キツツキ「じゃぁ、気をつけてな。」

道の真ん中に1匹のヤマアラシがうずくまっています。
プリルは木の実をヤマアラシにあげました。
するとヤマアラシは、パクッと食べました。
ヤマアラシ「ああ、おいしかった。」
プリル「なあーんだ、お腹がすいていたのか。・・・だろうと思った。」
ヤマアラシ「ピンポーン!・・・いやね、実は昨夜から何も食べてなかったんだよ。
というのもあのパズルのせいで、めっきり食べ物が無くなって閉まってね。
いやぁー、助かったよ。一応、腹の足しの10分の1位にはなったかなぁー。
・・・もっと持ってない?」
プリル「やれやれ、なんて厚かましいんだ。
まあいいけど、木の実はもうあれ1個きりだったんだ。」
ヤマアラシ「ふぅーん、まあいいか。ところで君はどうしてここにいるんだい?」
プリル「僕はプリルって言うんだ。
今、クリスを助けるためにパズルを倒しに行く途中なんだ。」
ヤマアラシ「何だって!
この空腹の原因を作ったあの憎いパズルを倒しに行ってくれるのかい?
そりゃ頼もしい。・・・あてにしてないけど・・・おおっと、聞こえた?」
プリル「・・・・・・」
ヤマアラシ「あっそうだ。
一応木の実をくれたお礼に、このおいらの針を1本プレゼントしよう。
おいおい、ガラクタだと思っているんじゃないかい?
なんのなんの(NANNOのファンというわけでは・・・)、
これはれっきとした武器、剣の一種として使えるんだぜ。
とっときなよ。」
プリル「い・ち・お・う、もらっとこうかな。」
ヤマアラシ「まあ、いいってことよ。じゃあな。」
そう言うと、ヤマアラシは森林の茂みの中に入って行きました。

ビーバーが丸太を抱えています。
プリル「こんにちは、ビーバーさん。何をしているのですか?」
ビーバー「ああ、昨夜の嵐で水かさが増したんで、
木を切ってせき止めているところなんだよ。」
プリル「ひょっとしてパズルの仕業なの?」
ビーバー「ああ、ひどいもんさ。・・・君は?」
プリル「これからパズルを倒しに行くプリルっていいます。」
ビーバー「パズルを!?・・・そりゃ大変だ。それで、何か方法はあるのかい?」
プリル「いいえ、別に。」
ビーバー「そりゃいかんなぁ。・・・おおっ、いいことを教えてやろう。」
ビーバーは、さっき削った木の一片を取り出し、素早く木彫りの剣を仕上げました。

プリル「うわぁーっ、凄いや。」
ビーバー「どうだい、この技術を持っていれば、
どんな時にどんなものでも自由に加工できるんだよ。
いいかい、今からその秘訣を教えてあげよう。
きっとパズルを倒すのに役立つだろうから。」
ビーバーは、プリルにその秘訣を伝授するのでした。
ビーバー「どれ、もう一度この木片を剣に削ってみなさい。」
プリル「はい。」
プリルはさっそく、木片を見事な木の剣に仕上げました。
ビーバー「良かろう。それは持って行くといい。達者でな。」
プリル「ありがとう、ビーバーさん。」
ビーバーはその場を去って行きました。

ガサッ。
前の草むらが揺れたかと思うと、
目の前にあの4つ耳ウサギのポトムが再び現れました。
ポトム「プリル。さっき言い忘れた事がある。」
プリル「当たり前だよ。君はあっという間にいなくなっちゃって。」
ポトム「あれ?そうだったかな?・・・まあいいや。」
プリル「それより、続きを話してくれよ。」
ポトム「詳しい事は、セイレイさんに聞くといいよ。」
プリル「そこへはどう行けばいいの?」

聞き返す間もなく、ポトムは風のように去って行きました。
プリル「チェッ、キザなヤツだ・・・。」
しばらくすると、持っていたブルーの宝石が赤く光り出しました。
プリル「うわぁーっ、何だ!?」


ここはセイレーンの天上界、フェアメルです。
プリル「驚いたなぁ。・・・そうか、ここがポトムの言っていたフェアメルか。」

前方の雲の切れ目から、華麗な塔が見えてきました。
プリル「あれがセイレイの住む塔だな。」

塔の前には、セイレイが佇んでいます。

セイレイ「待っていましたよ。」
プリル「あなたが、セイレイさんですか?」
セイレイ「そうです。私がこのフェアメルに住むセイレイです。
勇気ある少年プリル、あなたに伝えておくことがあります。」
プリル「はい。」
セイレイ「あなたの旅は、これから非常に危険がともなってくるでしょう。
なぜなら、魔王パズルが妨害工作をしてくるからです。」
プリル「それはどうしてなのですか?」
セイレイ「それは、あなたが妹クリスを助け出さないようにするためと、
セイレーンの聖石、
つまりあなたの持っているブルーの宝石のペンダントを奪おうとしているからです。」
プリル「それじゃ、クリスはやはりパズラードにいるのですね?無事なんですか?」
セイレイ「今は無事です。
でも、明朝までに助け出さないとおそらく危ないかも知れません。
なにしろクリスは、近い未来、
このセイレーンの地を平和に治める事の出来る唯一の人物なのですから。
・・・かといって、あきらめるあなたでは無いでしょう。
それに幸いな事に、セイレーンの聖石は今はあなたの手にあります。
何があっても、その聖石をパズルの手に渡してはなりません。
クリスを始め、動物達を救えるのは、
その聖石を持つ勇敢な若者であるプリルあなたしかないのです。
・・・いいですか、この魔法の鏡を授けます。
きっとあなたの強い力となってくれるでしよう。
でも、使い方は自分で見つけなければ意味が無いのです。
あなたを信じています。大切に持って行くのですよ。」
プリル「はい。」

セイレイと別れた途端、プリルは雲の間から足を踏み外してしまい、
下へと落ちて行きました。

プリルは危機一髪のところで、ユニコーンに助けられました。
プリル「あぁ、助かった。・・・ありがとう、ユニコーンさん。」
ユニコーン「なぁーに、大した事じゃないよ。
君のことはセイレイ様から聞いててよく知っているよ。
今から私が地上まで送って行ってあげよう。」

ユニコーンはプリルを乗せて、地上へと降りて行きました。

どうやら無事に地上に着いたプリルは、ユニコーンから降りてました。
ユニコーン「いいかい、君が今持っている剣では、
決して魔王パズルを倒すことは出来ないんだ。これが必要なのさ。」
ユニコーンはそう言うと、自分の大切な角をプリルに渡しました。
ユニコーン「大事なことは、まずこれを剣に加工しなければならない事だ。」
プリル「それなら大丈夫だよ。僕はビーバー君に教わったもの。」
ユニコーン「そうだったのか、それなら安心だ。
しかし問題は、剣にはエネルギーのコントロール装置が備わっていて、
一度使うとしばらくの間は光が失われてしまい、使い物にならない。
それに、いざというときでなければ輝いてくれないんだよ。
これらの事をよく肝に銘じておいて欲しい。」
プリル「よくわかりました。どうもありがとう、ユニコーンさん。」
ユニコーン「それじゃ、気をつけて行くんだよ。」

ユニコーンはそう言うと、瞬く間に天高く雲間に消えて行きました。
プリル「さようならーっ。」
プリルはユニコーンと別れると、さっそくもらった角を、
いとも簡単に剣を仕上げてしまいました。
プリルはユニコーンと別れて、北の方に移動します。
一方、地上に戻ったプリルの様子をこっそり見ているものがあった。
魔王パズルの手先、情報網のコウモリである。

ここは一変して闇に包まれた、岩ばかりの地底。
魔王パズルの本拠地パズラードである。

パズルの所にやってきた偵察コウモリ達。
魔王の手前には第一の部下のテンが待機している。
そして、囚われの身となっているプリルの妹、クリスがそこにいる。

コウモリ「ご報告申し上げます。プリルはセイレーンの聖石を手に入れたばかりか、
天上界フェアメルから戻り、
魔法の鏡とユニコーンの剣まで持ったようでございます。」
パズル「ふん、たかが小僧一人に何が出来るというのだ。
このわしに逆らうとは面白い・・・思い知らせてやる。
おいテン、地底メイズでヤツを叩きのめせ!」
テン「ははっ。」
テンは第一の家来である。
いく匹かの部下を従えてさっそく地底メイズへと向かうのだった。
どうやら動物の国に戻ってきたようですが、行き止まりになっています。

ガサッ・・・
前の草むらが揺れたかと思うと、
目の前にあの4つ耳ウサギのポトムが再び現れました。
ポトム「大変だよ、プリル。」
プリル「また途中でいなくなって・・・。
君に会わないうちに、セイレイさんに会ってきたよ。」
ポトム「それは良かった。が、安心している場合じゃないんだ。
実はこれを見てくれ。」
ポトムは例の時計を取り出しました。

いつの間にか砂の流れが縦になっており、どんどん下に流れています。
ポトム「急に時間の流れが早まって、僕の操作を離れてしまった。
どうやらパズルの影響らしい。」
プリル「その時計はいったい、今回の事と何の関係があるんだい?」

ポトム「何だ、まだ話してなかったっけ?」
プリル「・・・・・・」(あきれてものも言えない)
ポトム「前にも言ったように、この時計はセイレーンの時間の流れ、
すなわちこの砂が1回流れ切るごとに1日が過ぎて行くんだ。
今、上部に残っているのがこれからの今日の時間、
下部に落ちてしまったのがもう過ぎてしまった時間。
普通なら通常の時間の流れが保たれているんだけど、
こうやってパズルの影響で時間の流れが早くなるという事は、
君がクリスを助けるタイムリミットが早くなるという事なんだ。」
プリル「それじゃ、明朝までよりも更に早く、
今夜中に助け出さないと絶望的じゃないか!・・・何て事だ。」
ポトム「そうなんだ。できるだけ僕も時間の流れを取り戻すように努力をするけど、
パズルの勢力区域ではどうする事も出来ないし・・・。
はっきりしている事は、この残りの砂が落ち切ってしまうまでに、
君はパズルを倒さなければならないって事だ。」
プリル「・・・」
ポトム「いいかい、この近くは危険かも知れないよ。」
そう言い終わると、ポトムは風のように去って行きました。
プリル「あっ、待ってくれ!まだ聞きたい事があるんだ。」

突然、持っていたブルーの宝石が光を失ない、暗黒色と化しました。
そして次の瞬間、地面が割れて、プリルは地底へと落下していきました。

プリル「いてててっ・・・。一体どうなっているんだ?
それにここはどこなのだろうか。」
ここはセイレーンの地底メイズです。

足元の土が動いたかと思うと、モグラがひょっこりと顔を出しました。
次の瞬間、モグラは突然プリルに襲いかかってきました。
攻撃してくるモグラに応戦します。
モグラはいとも簡単にやっつけられました。

モグラ「うぁーん、殺すなり何なりとしてくれーっ。」
モグラは呆気ないやられ方に、自分で開き直りました。
プリル「君は見たところ、そう悪いモグラではなさそうだ。
どういう理由でパズルなんかの手下のなったのかは知らないけど、見逃してあげるよ。
ただ、今クリスがどうなっているか知りたいんだ。モグラ君、教えて欲しい。」
モグラ「残念だけど、それはおいらにはわからないんだ。
おいらはパズル直属の部下のテンの命令で動いているだけなんだ。
だから、パズラードの状況まではわからない。」
プリル「そうだったのか・・・。」
モグラ「あっ、そうだ。助けてもらったお礼にこれをあげるよ。」
モグラはそう言うと、小さな薬ビンをビリルに渡しました。
プリル「これは何の薬なんだい?」
モグラ「それはあらゆる猛毒に対する血清の一種だよ。
この地底メイズには他にも魔王パズルの手下が、君を狙って潜んでいるんだ。
その中には猛毒を武器とするヤツもいる。
万一その毒にやられたときは、すぐにこの薬を使うと助かるんだ。
いいかい、ここには2回分の使用量しか入っていないので、注意して使うこと。
毒にやられたときは何よりも真っ先に忘れないようにする事が大切なんだ。
でないと身体中に毒が回ってやられるからね。」
プリル「ありがとう、大事にするよ。」
モグラ「それじゃ、また会う事もあるかも知れないけど、くれぐれも気をつけて。」

岩陰から巨大なサソリが現れました。
プリルは岩場に追い詰められます。
サソリの真正面を突っ切るしか、もう逃げ場はありません。

プリルはサソリめがけてヤマアラシに貰った細く鋭い針の剣を投げつけます。
ドシュッ・・・針の剣はサソリの胸元に見事に突き刺さりました。
サソリはじっとしたまま動かなくなりました。
プリル「やったぁーっ。」
突然、再びサソリが動き出し、サソリの尾の毒針がプリルを捕らえました。
ドシュッ・・・プリルは毒にやられてしまいました。
プリル「ううっ、しまった。・・・早く薬をつけなくては・・・。」
どうやら針の剣は致命傷にはならなかったようです。

プリルは岩場に追い詰められます。

プリルはモグラに貰った薬ビンを取り出して、傷口につけました。
プリル「よーし、これで何とかなりそうだ。」
と、その時です。ユニコーンの剣が光輝き出したのです。
プリルは光輝くユニコーンの剣をかざし、弱っているサソリ目掛けて一振り!!
ドシュッ・・・サソリは、岩の割れ目へと沈んでいきました。
同時にユニコーンの剣の光も失われて行きました。
そして、プリルはようやく休息を取るのでした。

岩山の近くの沼地に、大きなトカゲがいます。

プリルは木の剣を振りかざし、大トカゲに立ち向かいます。
ドシュッ!・・・
木の剣は見事に大トカゲの口元に突き刺さりました。
プリルは木の剣と引き換えに大トカゲを倒す事が出来ました。
不思議な事にそれまで沼地だったはずのあたりが再び岩ばかりになりました。
プリル「魔王の幻覚だったのか・・・。」

もうどれだけこの地底を歩き続けたのだろうか。
プリル「どう進んでも地上への出口が見つけられない。
出口が近い事には違いないと思うのだけれど・・・。」
目の前は岩で遮られ、行き止まりになっている。
プリル「おおーい!」
プリルは一人で叫びました。
するとしばらくして、足元の土が盛り上がりました。

驚いた事に以前助けてあげたモグラがひょっこりと顔を出すではありませんか。
プリル「やあ、モグラ君だったのか。」
モグラ「今君の声が聞こえたので、とんで来たんだよ。」
プリル「うーん、実はこの地底から出られないので困っていたんだ。」
モグラ「そんな事だろうと思って、この前の恩返しをするつもりで助けに来たんだ。
ここはもう地底の出口に近い所なんだ。
今からおいらが地上への抜け穴を掘ってあげるから、後について来なよ。」

そう言うとモグラはさっそく穴を掘り始めた。
その後をプリルが続いて土の中に入って行きました。

ボコッ・・・モグラの道(穴)案内で、地底から地上へと出る事が出来ました。
ここは動物の国ではない様です。
プリル「うわぁーっ、助かった。ありがとうモグラ君。」
モグラ「おいらも役に立てて嬉しいよ。借りは返したからね。」
そう言うとモグラは今掘った穴に再び潜り、去って行きました。


コウモリがプリルの偵察から帰って来る。
ここは魔王パズルのいるパズラードである。
コウモリ「ご報告申し上げます。
プリルが地底メイズを抜け、グリフォンの森に入りました。」
パズル「何だと!テン、これはどういう事なのだ。」
テン「はっ、申し訳ございません。パズル様。実は・・・。」
パズル「言い訳など聞きたくはない。
良いか、何としてでもプリルを阻止するのだ。
テン、キサマがじきじき出向いてその責任を取るのだ。」
テン「ははっ。」
テンは素早くその場を離れました。
パズル「プリルめ、少し甘く見過ぎていたようだ。
だが、それもこれまでだな。フッフッ・・・。」
パズルは捕らえたクリスの方に目をやった。

クリスは自分を助けるために戦っている兄プリルの事をまだ知るよしも無かった。
モグラの助けで無事に地上に出られたプリル。
ここはグリフォンの森と呼ばれる、とても深い森です。

目の前に大きな木の切り株があります。

よく見てみると、あら不思議!?
切り株の中が水面になっているではありませんか。
切り株の水面に一匹の小魚が顔を出しました。
プリル「わあっ、驚いた。」
小魚「いやぁーっ、ごめんね。別に驚かすつもりじゃなかったんだよ。
誰かがこんな所を通る事は珍しいんでね。君はどこから来たんだい?」
プリル「たった今、地底から抜け出せたところだよ。」
小魚「な、何だって!?地底から?」
プリル「そうなんだ。パズルの手下の攻撃で、ひどい目に会ってね。
何とかここまで辿り着いたところなんだ。」
小魚「それじゃぁ、これからこのグリフォンの森を行くのかい?」
プリル「そうさ。動物の国の森を通ってきたんだ、この森だって簡単さ。」
小魚「そうは甘くはないよ。この森はとても奥が深いんだ。
一歩間違えばあの世行きさ。とにかく油断しない事だね。」
プリル「大丈夫さ。パズルの襲撃すら何とかかわして来たんだから。
・・・そう言えばこの森は、動物の国とも少し違ってるな。
パズルの襲撃には会わなかったのかい?」
小魚「うん、今のところはね。でも、ここも安心出来ないよ。
今にきっと・・・。さっきも赤いコウモリが飛んで行くところを見たよ。
気を付けて行くんだよ。」
プリル「ありがとう。そろそろ行くよ。」
プリルは木の切り株に住む不思議な小魚に別れを告げて、グリフォンの森へ・・・。

再び、時間ウサギのポトムが現れました。
ポトム「やあ、元気だったかい?」
ポトム「それにしても無事で何よりだった。
てっきり地底から生きて戻れないんじゃないかって心配していたんだ。
・・・あっ、そうだ。」
ポトムはまた例の時計を取り出しました。
その中は横になっており、砂の流れが止まっています。
ポトム「どうやらこのグリフォンの森は、パズルの影響を受けていないらしい。」
プリル「だから時間を止めていられるんだね?」
ポトム「ああ、今までが早く流れすぎていたからね。
でも、この状態がいつまでも続くとは限らないから、
先を急ぐに越したことはないよ。」
プリル「そうだね。知らせてくれてありがとう。」
ポトム「森の奥の方はどうなっているかわからないから、
パズルの手先には気をつけるんだよ。」
そう言い残して、ポトムは風のように去って行きました。

キツネが立っています。
キツネ「おい君、ちょっと寄っていかないかね?」
プリル「キツネさん、何かご用ですか?」
キツネ「つれないねー。せっかく良いことを教えてあげようと思ったのに・・・。」
プリル「えっ、ぜひ教えてください。」
キツネ「ほら、西の方へ行ってごらんよ。」
キツネは指さしました。

一見何の変哲も無い所ですが・・・。
何やら前方の草むらが怪しいようです。
どれどれ!?・・・あれれ!?

おや、これはお懐かしい。“は~りぃふぉっくす”の一家です。
どうやら今は平和に暮らしているようですね。

プリル「おーい、リス君。この森を抜けるには、この道を行けばいいのかなぁ。」
リス「うーん、僕はよくわからないんだけど・・・
なにしろこの辺りからあまり遠くへ出かけた事は無いんだよ。
ところで君、見かけない顔だね。」
プリル「うん、今は冒険の旅の途中でね。」
リス「そうなのー、そりゃぁ大変だね。あっ、そう言えばさっきこの先で、
今までこの森で見た事も無いような
獰猛なヤツが入り込んで来たっていう情報が流れていたよ。
正体がわからないから、気をつけた方がいいよ。」
リス「もう、そろそろ出かけた方がいいよ。僕は今からちょっと用があるから。」
そう言うと、リスは行ってしまいました。

元気の無いサイがじっとしています。
プリル「こんな所でどうしたんですか?」
サイ「・・・あぁ、もう動けないんだよ。おいらの足元を見てごらん。」
プリル「大変だ!石に変わって来ている。・・・まさか、魔王パズルが!?」
サイ「その通りだ。ヤツが襲ってきた、ここまでな。
恐ろしい奴だ、パズルというヤツは。」
ゴクミ、いや、ゴクリ(ゴクミのファンというわけでは・・・)、
ブリルは生ツバを飲むと同時に、改めて魔王の力を感じるのでした。
プリル「パズルめ!待ってろ。このプリルがもうすぐやっつけてやる。」
サイ「そうか、お前がプリルか。噂は聞いてるよ。
何でも、動物の国にいた妹のクリスを救い出すために、
たった一人で魔王パズルに立ち向かっていく勇気のある少年だと。
・・・いいかプリル。パズルの魔力は計り知れない。
ヤツの放つ闇の光線波に触れるな。
あれをまともに浴びてしまうと、こんな有り様だ。
石にされてしまうのさ。・・・ううっ。」
プリル「だ、大丈夫ですか?」
サイ「・・・もう先が無さそうだ・・・ひ、一つ頼みがある。」
プリル「何です?」
サイ「必ずオレ達の仇をとってくれ。
・・・そのためにも、このおいらの角を折ってくれ。」
プリル「何を言うんです。そんな事をしたらサイさんの命が!」
サイ「・・・どのみちおいらは終わりだ。
だからよ、憎いパズルを倒す手助けの一つにしてくれ。
おいらの角を役立てて欲しいんだ。わかってくれ!プリル。」
プリル「・・・わかったよ、サイさん。じゃぁ、折るからね。」
プリルはサイの頭に飛び乗って、角にぶら下がります。
そして、2本のうちの1本を折りました。
サイ「いいかプリル、きっと・・・必ずヤツを・・・パズルを倒してくれ・・・。」
プリル「サイさーん!!」
サイ「・・・・・」
プリルはサイの角を握りしめました。
いつまでも悲しんでいる事は出来ません。
プリルはサイの角を見事な剣に仕上げるのでした。
風化していくサイの亡骸だけが残っています。

突然、呼びもしないのに、セーブうさぎが現れました。
セーブうさぎ「魔王パズル様のご命令により、プリル、ここからは前に通さないぞ!」
セーブうさぎの目はうつろで、誰かに操られているようです。
プリル「何だって!?・・・さてはパズルめ、催眠術をかけたな!?」
セーブうさぎ「なんちゃって!ウソだよ。」
プリル「なあんだ、脅かさないでくれよ。」
セーブうさぎ「ごめんごめん!でもね、しばらく来れなくなるんだ。」
プリル「なんだって!?そいつは大変じゃないか。でもまたどうしてなんだい?」
セーブうさぎ「実はここから先は、パズルの影響が強過ぎるために、
しばらくの間セーブができない区域になっているんだよ。
そういうわけだから・・・。」
そう言い残して、ポトム・・・じゃなくて、セーブうさぎは姿を消しました。

リス「そういえばこの前、変わった木ノ実を拾ったんだけど、
どうもおかしいんで食べずにとっておいたんだけど、
どうせいらないから君にあげるよ。」
リスは不思議な木ノ実をプリルにあげます。
リス「もう、そろそろ出かけた方がいいよ。僕は今からちょっと用があるから。」
そう言うと、リスはまた行ってしまいました。
プリル『今度はトイレにでも行ったのかな?』

草むらの影からコブラがプリルに襲いかかります。

戦いを挑んでも、素手では到底かないそうにありません。
プリル「コブラめ!行くぞ!」
プリルはかかんに攻撃を仕掛けますが、
巧みに動き回るコブラの牙につかまりました。
プリル「ううっ・・・。」
コブラの猛毒にやられたプリルは、残りの薬を傷口につけました。
プリル「・・・もうこれ以上、やられるわけにはいかない!」
プリルは、カラになった薬ビンをコブラに投げつけます。
コブラが構えています。
西の方に逃げ道が出来ました。西へ進みます。
コブラが執拗に追ってきます。もう振り切る事は出来ません。
コブラ「潔くないヤツだな、あきらめるな。」
コブラは、傷ついたプリルに容赦なく襲います。
ガブリッ・・・とうとうプリルは、コブラの手にかかりました。

もうどれくらいの時間がたったであろうか・・・。
ポトム「おい、大丈夫か?しっかりしろ。」
プリルは、ポトムの呼ぶ声で気がついた。
プリル「う、うーん・・・」
ポトム「気がついたかい?」
プリル「あ、ここは?」
ポトム「ここは、まだグリフォンの森の中だよ。」
プリル「どうなったんだろう・・・。」
ポトム「危ないとこだった。君はもう少しで、コブラの餌食になっていたんだよ。」
プリル「ああ、そうだった。確かあいつに追い詰められて、やられたんだった。
・・・そうか、君が助けてくれたんだね。ありがとう。」
ポトム「なーに、気にする事はないさ。
それより、先を急がないと時間がどんどんたっていくよ。
でも、その身体じゃ・・・。」
プリル「だ、大丈夫さ、これしき。」
ポトムは話しを続けた。
ポトム「君に言って置く事がある。
この未知をまっすぐ行くと、やがてとてつもなく広い湖に出る。
その湖には、大水柱と呼ばれる、天にも届くような高さの水の柱がある。
そこを超えない限り、パズラードへの道は無いんだ。」
プリル「大水柱?」
ポトム「ああ、それを越える事は容易ではない。
でも、ここまで頑張ってきた君になら出来るはずさ・・・。」
そう言うと、ポトムはまたどこかに行ってしまいました。
道端に無惨にも八つ裂きにされたコブラがいます。
プリル「こいつは僕を襲ったコブラだ。・・・でも変だぞ!?やけに傷ついている。
まるで何か鋭いもので掻っ切られたような・・・。」
と、その時です。茂みの中から巨大なテンが現れました。

テン「よく来たな、プリル。敵ながら褒めてやるぜ。
だがもうここから先へは進ません。」
プリル「キサマは誰だ!?」
テン「フフフッ、オレは魔王パズル様の一の家来、テン様よ。
プリル、今までよくもオレのかわいい部下達をやってくれたな。
コブラまでがしくじりおって、お陰でとんだテマだ。」
プリル「それじゃ、コブラを引き裂いたのは・・・。」
テン「そうさ、このオレ様さ。」
プリル「どうして味方を殺すんだ!」
テン「フン、しくじったからさ。負け犬に用はない。
失敗した者には絶対死をもたらすのが、パズラードの掟なのだ。
以前、お前を助けたモグラがいただろう。
あいつも既にこの世にはいない・・・フフフッ。」
プリル「な、なんてことを!!・・・なんてヤツだ・・・。」
テン「それにもう一匹、目障りなのがいたな。確かポトムってヤツだ。」
プリル「まさか、ポトムまで!?」
テン「フン、ヤツも見つけ次第、殺すまでさ。」
プリル『そうか、ポトムはまだ無事なんだな。』
テン「長話はこれくらいにして、そろそろ年貢の納め時だな。」
プリル「望むところだ!」
テン「フオーッ!」

プリルはサイの剣を取り出して、テンに向かいます。
プリル「やぁーっ!」
バシッ・・・
あえなく跳ね飛ばされてしまいました。
プレルは再び身構えます。テンがまた迫ってきます。
プリル「えーいっ!」
シャッ・・・
プリルはジャンプ一番、テンに斬りつけました。
剣は、テンの右目を斬り裂いたのです。

ドシーン・・・
そのままテンは地に倒れ、動かなくなってしまいました。
プリル「・・・とうとうやった。」
やっとの思いで宿敵テンを倒したプリルは、
ようやくグリフォンの森を抜け出す事ができ、
あたりは森林が一気に開けたところです。

一方、パズラードでは・・・
偵察のコウモリが帰還し、先の状況を魔王パズルに報告します。
パズル「何だと!?・・・テンめ、しくじりおったか!」
パズルの怒りは心頭に達しました。
パズル「それにしてもプリルのヤツめ、ここまでやるとはな。
だが、あのセイレーンの地の難関である大水柱は無事越せまいて。
フッフッ、いざとなればこちらには切り札がある。
このクリスさえ手中にあれば、プリルなんぞ敵ではないわ。フッフッフッ・・・」
地底の闇深く、パズルの不気味な笑いが木霊するのでした。

大水柱のある湖の岸辺です。
とてつもなく広い、まるで海洋の様な湖。その中央には、大水柱が見える。
このセイレーンの地の象徴とも言える、
最大の難関として知られる、大湖に存在する大水柱。
別名をウォーターブリッジともいい、竜巻状の水の柱である。
その水力は何者より強く、その先端は天にも届くかのように伸びている。
かつて、ここを無事に越えられた者はいない。

サケ「さっきから、相手もいないのに何を話すんじゃね?」
突然、湖の中から一匹のサケが飛び出しました。
プリル「どうやってこの湖を渡ろうかと困っていたところなんです。」
サケ「ほう、それはそれは。」
プリル「サケさん、教えてください。ここを渡るにはどうすればいいのですか?」
サケ「なーに、いたって簡単さ。泳いで渡ればよい。」
プリル「そ、そんなのムリですよ。」
サケ「ならやめておく事だな。」
プリル「そういうわけにはいかないんだ。
どうしてもここを渡って、パズラードへ乗り込まなくてはならないんだ。」
サケ「な、何じゃと!?い、今なんと言った?」
プリル「だから、パズルを倒しにいくのです。」
サケ「おおーっ、そうじゃったのか。
あの魔王を・・・なら話は別じゃ。それ、早よ乗らんかい。」
どうやらサケが向こう岸まで運んでくれるようですが・・・
プリル「サケさん、本当に大丈夫なんでしょうね。」
サケ「わしを信用せい!」

サケはプリルを背に乗せると、大水柱目指して泳ぎ始めました。
プリル「この大水柱を越えるには、一体どれだけかかるんですか?」
サケ「うーむ、それは難しい質問じゃのう。」
プリル「サケさんは以前にもこの大水柱を越えた事があるんですよね。」
サケ「いいや、挑戦するのはこれが初めてじゃよ。」
プリル「ええーっ!?そんな・・・。」
サケ「・・・そう言えば、なんだかとても疲れて来たようじゃ。」
プリル「大丈夫ですが、頑張って下さいよ。」
サケ「・・・ううーむ・・・い、いかん・・・」
プリル「サケさーん!!」

あっけなく、大水柱を渡っている最中に、サケは力尽きてしまいました。
プリルは湖に放り出され、このままでは流されてしまいます。
今まで全く反応しなかった魔法の鏡が、突然光りだしました。
その光は眩い程に、あたりを真っ白に変えるのでした。

すると、光の中からあのセイレイが姿を現しました。
セイレイ「勇気ある少年プリルよ、よくここまでこられましたね。
あなたならきっとやれると思っていました。
でも、大変なのはむしろこれからです。
この大水柱を越えても先はまだまだです。
今までの行いを忘れないように頑張るのですよ。」
光と共に、セイレイは消えて行きました。
プリル「ありがとう、セイレイさん。」

こうしてプリルは、大水柱を越える事ができたのです。
無事に対岸に辿り着いたプリルは・・・。」
プリル「ここはどこだろう。」
プリルがとまどっているところに、
グリフォンの森でいつの間にか姿を消していた、
あのセーブうさぎが再び現れました。
セーブうさぎ「やあ、無事で何よりだったね。」
プリル「気楽に言ってくれるよ。こっちは大変だったんだからね。」
セーブうさぎ「まあそう言わずに、せっかく再会したんだし・・・。
でも本当にここまで来れたんだね。
もうここからなら、セーブが出来ると思うよ。でも、おいらも忙しい身だからなぁ。
あまり呼び出さないでくれたまえ。」
そう言うと、セーブうさぎは姿を消しました。
プリル「・・・・・」

あたりは草で覆われて、行き止まりになっていますが・・・。

プリルは、むりやり草を掻き分けて、北の方へ移動します。

ようやく草むらを抜けたかと思うと、そこは何だか今までと違っています。
プリル「おや、あんなところに人間がいるぞ。」
どうやら知らず知らずのうちに人間の住む世界に入り込んでしまったようです。
プリルにとってはじめての人間との出会いです。
プリルはそっと人間の側に近寄ろうと・・・。

話しても、言葉が通じません。それに、人間の言葉はわかりません。
>食べる 不思議な木ノ実
あらあら不思議、身体中に何やらビリビリッと電気が通ったような感じがしました。
全く通じなかった人間の言葉がわかるではありませんか。
どうやらリスにもらった不思議な木ノ実は、
人間と会話できる、翻訳機能を持っていたようです。

少年「こんにちは。いったい君は誰なんだい?どこから来たの?」
プリル『えっ!?人間の言葉がわかるぞ!・・・』
「僕はプリルと言います。動物の国からグリフォンの森を抜けて来たんですが、
どうも人間界に迷い込んでしまったようなのです。」
少年「僕の言葉がわかるんだね。凄いや!僕はラトクっていうんだ。
この村に住んでいるんだ。」
プリル「ラトクさん、パズラードへ行く道を知りませんか?」
ラトク「パズラード?」
プリル「そうです、魔王パズルの住む地底の国なのです。」
ラトク「うーん、残念だけど聞いた事がないなぁ。」
プリル「そうですか・・・。人間の世界では、まだ気づいてないんですね。」
ラトク「何だか僕らにはわからないような、何かがあるみたいだね。
良かったら、詳しく教えてくれないかい?」
プリル「わかりました、ラトクさん。」
ラトク「ラトクでいいよ、プリル。」
プリル「はい、実は・・・」
プリルは今までの冒険の数々や、恐ろしい魔王パズルの存在、
そして妹クリスの事などを少年ラトクに話しました。
ラトク「そうなのか・・・これは放っておいたら大変な事になるぞ。
今に、何も知らない僕ら人間達には魔王の力が及んでくるに違いない。」
プリル「だから、僕は戦っているんだ!」
ラトク「ねえプリル。良かったらこの仕事、僕にも手伝わせてくれないかい?」
プリル「いいとも、喜んで。ラトクがいてくれたら僕も力強いよ。」
ラトク「よし、決まった。善は急げだ、さっそく出発しよう。」

グリフォンの森の入口以来、
すっかり姿を見せなかった四つ耳ウサギのポトムが再び現れました。
ポトム「大変だよ、プリル!」
プリル「ポトム!いったい今までどこに行っていたんだい?」
ポトム「そんなこと言っている時じゃないよ。
しばらくは時の流れを止めていられると思って安心していたのに、
魔王の影響が再び強くなっているんだ。」
ラトク「そうだとしたら、そうのんびりもしていられない。」
ポトム「おや?この少年は?」
プリル「魔王パズルを倒すのを手伝ってくれるラトクだよ。
少し前にこの村で会ったんだ。」
ラトク「よろしく、ポトム。」
ポトム『あーあ、プリルに付き合わされて、お気の毒に・・・』
プリル「何だって!?ポトム。」
ポトム「えっ?聞こえた?・・・はははっ、ジョウダンだよ。
ラトク、プリルと力を合わせて頑張ってくれ。」
そう言うと、ポトムは風のようにまたどこかへと去って行きました。

プリル「本当に調子がいいんだから・・・。」

家の前に、若者の犬が立っています。何かあった様子です。
犬「おーい、君たち。」
プリル「これは犬さん、こんな所でどうしたのですか?」
犬「いや、恐ろしいものを見てしまったんだよ。」
プリル「それはいったい何だったのですか?」
犬「あれはおそらく、魔王パズルに違いない・・・。」
ラトク「それじゃ、やっぱり犬さんもパズルの存在を知っているんですか?」
プリル「それは当然だと思うよ。いくらラトクと同じ村に住んでいたとしても、
僕ら動物は人間と違って、このセイレーンの地の動きをより早く、
更に詳しくとらえる事が出来るんだよ。」
犬「そうさ、だからほんの一瞬ではあったけど、オレは見たんだ。」
プリル「で、何を?」
犬「ああ、恐ろしい・・・。」
犬「実は、前に仕事をしていたときの事だった。突然あたりが闇に包まれ、
黒いマントを羽織ったら魔王らしき者が上空を飛び去って行ったのだ。」
ラトク「やはりパズルが・・・。」
プリル「で、どちらへ飛んで行ったのです?」
犬「北の方だ。・・・セイレーンの北の地には魔王が住んでいるという、
昔からの言い伝えがある。
それが、あの魔王パズルの地底国パズラードなのさ。」
ラトク「パズラード!・・・北の果て・・・。行こう、プリル!」
犬「お前達、いったいどこへ行こうというのだ?」
プリル「パズラードさ!」
犬「何だって!?お前達、自分から殺されに行くようなものだぞ!」
ラトク「その前に戦うのさ!プリルの妹を取り戻すためにな。」
犬「えっ?今何と言った?」
プリル「パズルは、動物達を意思にしてしまったばかりか、
僕の妹クリスを連れ去ったんだ。」
犬「なんてこった!
それじゃぁ、あの時、魔王のヤツが手にしていたのはひょっとして・・・。」
ラトク「それは間違いなく、クリスがさらわれたときだったんだ!」
犬「ああ、だったら早く行った方がいいぞ!」
プリル「パズルめ!必ずクリスを取り戻すぞ!」
ラトク「他に知っている事は?」
犬「いや、これくらいしかオレにはわからない。」
ラトク「よし行こう、プリル。」
犬「オレには何もしてやれないが、魔王のヤツをお前達が、
はっと倒してくれる事を祈ってるぜ。」
プリル「ありがとう、犬さん。」

犬「気を付けて行けよ!」

草むらにある小石の上に、一羽のハトがとまっています。
ハト「あら、珍しいお客さんだわ。こんな所でどうしたの?」
プリル「パズラードへ向かう旅の途中なのです。」
ハト「何ですって!?」
プリル「ハトさん、何か知っているんですか?」
ハト「知ってるってもんじゃないわよ、失礼しちゃうわね。
これでも私は森の情報屋なのよ。
いつも空を飛んでいるから、なんでもお見通しよ。」
ラトク「それじゃ、クリスの事も?」
ハト「当たり前でしょ。・・・それが大変なのよ。」
プリル「ハトさん、詳しく聞かせてよ。」
ハト「いいでしょ。あれは、ちょっと前の事だったわ・・・
魔王パズルの偵察隊の赤コウモリが妙な所を飛んでいたので、
そっとその後をつけて行ったのよ。
もちろん怖かったけど、前にひどい目にあわされたもんだから、
もう無我夢中でやった事なのよ、
そりゃぁ思い出しても頭に来る事ったら!!プンプン。」
ラトク「どうどう・・・ハトさん、落ち着いて。」
ハト「あっ、そうだったわ。
私とした事が取り乱してしまって、まぁ、お恥ずかしい。ホッホッホッ。」
プリル「それで、その先は?」
ハト「はいはい、そう慌てなくたっていいでしょ。
でね、コウモリの行った先というのが・・・
ホッホッホッ、私にもよくわからなかったのよ!」
ラトク「ガクッ・・・おいおい、しっかりしてくれよ。」
ハト「失礼しちゃうわね、何も忘れたとは言ってないわよ。」
プリル「いいからその先は?」
ハト「そうね、あれは確か、セイレーン最果ての待ちに差し掛かったときだったわ。
あたりが突然ガラリと変わって、今まで見た事もない地底の岩場になったのよ。
そして、そこにあの恐ろしい魔王パズルがいたの!・・・もうダメかと思ったわよ。」
ラトク「で、クリスはいたのかい?」
ハト「ええ!・・・かわいそうに。縄で縛られて、とらわれていたわ。」
ラトク「それじゃ、まだ無事で生きているんだね。
プリル、今ならまだ間に合う!行こう!」
プリル「よし、やるぞ!」
ハト「これで知っている事は全てお話したわよ。そろそろ行くわ。」
そう言うと、ハトハ飛んで行きました。

プリルとラトクの前に、すらりと佇んでいるネコがいます。
ネコ「あら?こんな所に二人もお兄さんがいるわ。どうしたのかしら。」
ラトク「えらく馴れ馴れしいネコですねー。」
ネコ「あら、私はネコじゃなくってよ!ちゃんとキャットって名前があるの。」
ラトク「これはこれは、大変失礼致しました・・・キャット女王様。」
プリル「ラトク、ふざけている場合じゃないよ。」
ラトク「ああ、そうだった。僕はなんて事をしているんだ!?」
プリル「・・・・・」
キャット「あなた達、お笑いコンビなの?」
ラトク「・・・ジョウダンはさておき、キャット、君は知らないか?
・・・パズラードへの入口を。」
キャット「パズラードですって!?あの恐ろしい魔王パズルがいるという・・・。」
プリル「そうさ、妹クリスを助けに行くんだ!」
キャット「そうだったの。・・・実は私も、詳しくは知らないのよ。
ただ、パズラードは本当はどこにあるというものでもなくて、現実には地底になく、
人間のイメージの世界が創り出した幻想かも知れないという事なの。」
プリルとラトク「何だって!?」
キャット「決して全部は信用しないでね、あくまでも他から聞いた話なんだから。」
キャット「あっ、そうだわ。この先によく、バクおじさんのパックが現れるの。
そのパックなら、毎夜人間の夢の中に入り込んであちこち飛び回っているから、
きっとなにか知っていると思うわ。」
ラトク「プリル、そのパックを捜しにさっそく出発しよう。」
プリル「ありがとう、ネコのお姉さん。」
キャット「ありがとうまた会いましょうね、お二人さん。」
そう言うとキャットは、軽やかにどこかへ行ってしまいました。

ラトク「パズラードに関するキャットの話が本当だとすれば、
その入口を見つける事は容易ではないな。」
プリル「でも。パックに会う事ができれば、それも何とかなる。」
ラトク「そうだ!今はパックを見つける事が先決だ。」
プリル「あのハトさん、どうやってパズラードからここに帰れたんだろう・・・?」
ラトク「そう言えば、そこまでは話してなかったなぁ。
きっと行った時のように、コウモリの後をつけて出たんだろ。」
プリル「とすると、コウモリを見つければ、魔王の所に行けるかも知れない・・・。」
ラトク「そうだよ!その通りだよ。」
ラトク「ねえ、プリル。君と妹のクリスとは、
なぜ今まで、離れ離れになっていたんだい?」
プリル「・・・・・」
ラトク「いや、話したくなければ無理に話さなくてもいいよ。
嫌なこと思い出させちゃったかな。」
プリル「ううん、別にいいんだ。」
ラトク「もし良かったら話してくれない?君とクリスの事を。」
プリル「わかったよ。思い出せば、長くなる話だけど・・・。」
プリルは、妹クリスとの事を知っている限り、ラトクに話しました。

『・・・それは、プリル達が生まれた時に遡ります。
兄プリルと妹クリスは、双子の兄妹として生まれました。
彼らの両親は、平凡ながらも平和な暮らしを送っていました。
少なくともその時までは・・・。
それは二人が生まれた時、不思議な事に、妹クリスはその小さな手に、
プルーの宝石のペンダントを握りしめていたのです。
それは間違いなく、セイレーンの地を治める事の出来る証、セイレーンの聖石でした。
この地には、
「セイレーンの聖石を生まれながらにして持つ者は、
その自由意志によりて全世界を治める権利が与えられる。」
という、古い言い伝えがあったのです。
皮肉にも村人達は、生まれたばかりのクリスの事を恐れ始めました。
そして、夜な夜なクリスを今のうちにとばかり、つけ狙う者さえ出始めたのです。
「このままでは、クリスはいつか殺される・・・。」
それを案じた両親は、身を切る思いで、
ついに悲しい決心をしなくてはなりませんでした。
どこへも預ける身寄りのない両親は、
ある嵐の夜、まだ幼いクリスをただ一人海に流したのです。
生きて再び会う事は無いという事を覚悟して・・・。
・・・それは、何とも言えない悲劇でした。
それから両親は、残ったもう一人の子、プリルを育てたのです。
クリスの分までも・・・。
やがて数年が過ぎ、プリルもすっかりリッパな少年に成長しました。
もちろんあれ以来、両親はクリスの事を口に出す事はなく、
プリルは一人っ子として扱われて来ました。
・・・でも、プリルは知っていました。
その幼い頃の記憶の片隅に、
かつて自分を兄と慕ってくれた妹クリスのいた事を・・・。
ある朝、プリルは両親に黙って家を出ました。
・・・そうです、幼い頃生き別れとなった妹クリスを捜すために、
今もきっとどこかで元気に生きていると信じて、旅立ったのです。
そして長い旅の途中、動物の国でやっと妹クリスの手がかりを見つけ、
魔王パズルの存在を知ったのでした。
また、クリスは幼い頃、動物の国に無事に流れ着き、
みんなに大切に育てられていたという事も・・・。』
ラトク「そうだったのか・・・。じゃぁ、何としてでも会わないとね。
いや、会うべきだ!僕も力になるから、頑張ろう!」
プリル「ありがとう、ラトク!」
ラトク「ポトムって、何者なの?」
プリル「ポトムはね、
このセイレーンの地全体の時間の流れを管理する不思議な四つ耳ウサギなんだ。」
ラトク「へーっ、そうだったのか。」
ラトク「魔王パズルは手強そうだ。素手では歯が立たないかも知れない。」
プリル「ラトクは何か武器を持ってる?」
ラトク「ああ、一応この短剣だけはね。」
ラトクは自分の持っている短剣をプリルに見せました。
プリル「わぁ、凄くリッパな剣!」

キャットが話していたバクが、家の前に座っています。
バク「おや?君達は?」
プリル「あなたがバクおじさんのパックですか?」
バク「正真正銘、わしがパックだが。」
プリル「どうしてもパズラードへ行きたいのです。教えて下さい、その道を!」
バク「パ、パズラードだと!?」
ラトク「そうです、あの魔王パズルがいる所です。」
プリル「キャットに聞いたんです、あなたの事を。
パックに会えば方法を知っていると。」
バク「うーむ、わしはあまり気が進まないんだ・・・。」
ラトク「何を言っているんですか!こんな時に。
一刻も早くしないと、クリスの命が危ないんだ。」
プリル「どうかお願いします、パックさん。」
ラトク「パックさん!」
バク「・・・・・」
パック「・・・・・」
ラトク「なぜです?どうして話してくれないんですか?」
プリル「お願いします、一刻を争うのです!」
パック「よし、わかった。そこまで頼まれては、わしも断るわけにはいくまい。」
ラトク「本当ですか!」
プリル「ありがとう、パックさん!」
パック「いいかね、これから話す事をよく聞くんじゃ。
・・・まずはこのセイレーンの地、全体の事から話さねばなるまい・・・。
お前さん達も、もう薄々気づいているかも知れんが、
この世界は現実に存在しているわけではないのじゃ。
信じられないかも知れんが、
このセイレーン全体が人間の空想で創られた世界なのじゃ。
つまり、夢そのものという事になる。」
ラトク「それじゃ、僕達の存在自体が幻であり、
生身の身体じゃないというんですか!?そんなバカな!」
パック「いや、そうとも言っていない。
現にわしたち一人一人、生身の身体を持っておる。
だが、セイレーンの地に住んでいるということ自体、それは夢の中、
すなわち人間が現在見ている夢そのものという事なのじゃ。」
プリル「それでは今、
魔王にとらわれているクリスの事を夢見ている人間を捜し出せば、
パズラードに行く事が出来るのですね。」
パック「そうじゃ・その人間の夢の中に入れば、
そこが即、パズラードに着いたという印なのじゃ。」
ラトク「なんだか頭がゴチャゴチャになってきたぞ、グルグル・・・っと、
パックさんはもともとバクだから、夢の中に入る事は簡単だ。どっちにしても、
今この世界を夢見ている人間を捜す事がカンジンっていうわけだ。」
パック「それなら心配に及ばぬ。
つい今しがた、この先の街で夢見ていた少女がいたのじゃ。」
プリル&ラトク「何だって!?」
パック「そうそう言い忘れていたが、
人間といっても誰でもいいわけじゃないんだ。
純粋な心を持った人間しかダメなのじゃよ。」
ラトク「それでその少女が・・・。」
プリル「パックさん、その少女の夢の中に連れて行って下さい!」
ラトク「そうさ、場所がわかっているんなら、話は早い。」
パック「・・・致し方ないのう。じゃが、その前に一つだけ約束してくれ。
少女の夢の中に入ったら、すなわちパズラードに着いたら、
わしの案内はそこで終わりという事じゃ。良いな。」
プリル「はい、わかりました。」
ラトク「パズラードに着きさえすればこっちのものさ!」
パック「では、北へ向かって出発じゃ。」

いつの間にか、あたりはすっかり日が落ち、夜になっています。
パック「今宵、少女が夢見ている間だけの時間じゃ。
この限られた時間内に成すべき事をしない限り、結末は無いぞ。」
プリル「夜が明けるまでに・・・。」


プリル「一体どこにいるのですか?」
パック「そう慌てるでない。この世界に起こっている出来事を、
今夢見ているという純粋な心を持った少女を、わしはよく知っておる。
なぜなら、ついさっきまでその夢の中に入って様子を伺っていたからじゃ。
そして、その中にお前達二人が、キャットに聞いてこのわしを訪ねてくる事を知った。
だから待っていたのじゃよ、こうなる時を。」

ラトク「それじゃ、今までの事は何でもお見通しだったというのですか!?」
プリル「そう言えば、フェアメルに住むセイレイさんも同じ事を言っていたな。」
パック「誤解しては困る。知っているのはあくまで、過去、そして現在だけじゃ。
そしてこれからの未来は、
いくらでも努力次第で変えられるという事を忘れてはいかんぞ。」
プリル「未来は自分で作る!」
ラトク「そうさ!当然だ。」
パック「さあ、いよいよじゃな。すぐ近くにその家があるのじゃ。」
パックの案内で、すぐにその少女の家は見つかりました。
キャット「あらまあ、お兄さん達。」

驚いた事にそこには、ラトクのむらで出会ったネコのお姉さん、
キャットがいるではありませんか!?
ラトク「どうしてキャットがここに?」
キャット「あら、つれないのねぇ。
ラトクの事が心配で、ついて来ちゃったなんて言えないわよ。」
ラトク「よく言うよ。」
パック「さあ、いよいよじゃよ。」

パック「もう、ここがそうじゃ。」
パック「この窓から中の少女を覗いてみるんじゃ。」

ラトク「あの少女が、全てのカギを握っているんだな。」
プリル「あの少女の夢の中に、クリスが・・・。」
パック「さあ、用意はいいかな。」
パックはそう言うと、ふわりと身体を宙に浮かせました。
そして、叫びます。


一瞬、あたりが光に包まれたかと思うと、次には一変した世界が広がっていました。
パック「さあ、着いたよ。」
プリル&ラトク「ここが、パズラード・・・。」

パック「・・・さてと、わしの役目も終わったようじゃ。
わしら二人はここで失礼する事にするよ。」
キャット「二人ですって!?」
パック「そうじゃ。ここから先は、もとより彼らに与えられた試練じゃ。
キャットは戻るが筋というもの。」
キャット「嫌よーっ。私はこの二人と残るつもりなのよ。」
パック「バカ者、わからぬか!自分の未来は自分で切り開いていくものぞ。
二人ならよくわかるはずじゃ。」
プリル「はい。」
ラトク「キャット、今までありがとう。ここでお別れだね。」
キャット「ラトクさまーっ・・・ニャォーン。」
パック「プリルとラトクよ、お前達の成功を祈っているよ。さらばじゃ。」

一方、プリル達がパズラードに侵入した事を知った魔王は・・・
パズル「プリル、どうやら甘く見過ぎていたようだ。
あの大水柱を越えたばかりか、人間と接触し、味方に引き入れるなぞ、
敵ながら見事だ。
しかし、忘れてもらっては困る。切り札はこちらにあるという事をな・・・。
来るがよい、ここまで。


パック達と別れた後、四つ耳ウサギのポトムが姿を現しました。
プリル「ポトム!君はこんな所まで来られるんだね。」
ポトム「とうとうここまで来たんだね。・・・負けたよ、君には。」
プリル「えっ!?どういう事なんだい?」
ポトム「・・・・・」
ラトク「ポトム、君は何か僕達に隠している事があるんじゃないのかい?」
プリル「もしそうなら、全てを今、話して欲しい!」
ポトム「・・・わかったよ。
前にも言ったように、僕はこのセイレーンの地全体の時間を操れる存在だ。
時間の流れ、すなわち、現在を自由に変えられるという事なんだ。
いや、現在だけじゃない、過去、そして未来までも計画的になす事が出来るんだよ。」
ラトク「それじゃ、今までの苦しい冒険も戦いも、
全て仕組まれた事だったというのか!?」
ポトム「・・・・・」
ラトク「ポトム、キサマっ!」
プリル「待って、ラトク!」
ラトク「プリル・・・」
プリル「たとえ、今言ったポトムの言葉が事実だったとしても、
今まで自分がやってきた事に悔いは無いはずだよ。
一生懸命にここまでやってきたのは何のため?
・・・そうさ、僕には目的がある。
仮に、全てが仕組まれている事だったとしても、自分だけの目的を成し遂げるよう、
最大限努力すればいいじゃないか!」
ポトム「プリル・・・」
ラトク「プリル、お前ってヤツは・・・。」
プリル「そういうこと。」
ラトク「よし、これからの現在、そして未来を自分達で変えるんだ!
・・・行こうプリル、クリスのもとへ!」
ポトム「待って!・・・行くな!・・・行かない方がいい!」
ラトク「いまさら、どういう事なんだ!?」
プリル「ラトク!おさえて。」
ポトム「今になって信じてくれとは言わないが、
本心から君達のためを思って忠告したい。
魔王の所へは行くべきじゃない!行ってはいけない!」
プリル「ポトム、心配してくれるのはとても嬉しいよ。
でもね、この先どんな事があろうと、
たとえ命が尽きる事になっても、僕は後へは引かない。
必ず魔王を倒し、クリスを助け出してみせる!!」
ラトク「プリル、よく言った!その通りだよ。
・・・そうと決まれば、こんな所に長居は無用だ。さあ、行こう!」

プリル「あっ、ポトムがいない・・・。」
ラトク「あんなヤツ、放っておけばいいさ。」
いつの間にか、ポトムはその場から姿を消していました。
ポトム『・・・プリル、魔王の所へ行ってはならないというのは、
そういう意味じゃないんだ。
本当はもっと違うんだよ。
・・・今の僕にはそれが言えなかったんだ、許してくれ・・・。』
プリルはふと、ポトムの心の声を聞いた感じがするのでした。

周りは囲まれて行き止まりになっていますが、上へと続く階段があります。
岩塔の中の階段を駆け上がります。
岩の階段を上った所には・・・
なんと、倒したはずのテンが立っているではありませんか!?
ラトク「なんだ、あれは!?」
プリル「お前は、まさか・・・。」
テン「ようプリル、久しぶりだなぁー。」
プリル「死んだはずじゃなかったのか!?」
そうです。それはまさしく、かつてグリフォンの森を出ようという時に戦った、
魔王パズルの手下テンでした。

プリル「生きていたのか・・・。」
ラトク「一体どういう事なんだ!?」
プリル「ラトク、君と出会う前に、こいつと一戦交えたのさ。
てっきりやっつけたと思っていたのに・・・。」
テン「フォーッ、今度こそ息の根を止めてやる!」

ラトク「そういう事か。・・・こいつはオレに任せろ!!」
プリル「ラトク!」
ラトク「プリル、何をしている!こいつはオレが引き受けた。
そのスキにパズルの所へ行くんだ、早く!」
ラトクの機転により、道を塞いでいたテンが移動しました。
ラトク「今だ、早く行くんだ!」
今のうちに前進します。
ラトクにテンとの戦いを任せて、プリルは一人で進みます。

岩塔の中の階段を駆け上がります。
目の前に大きな岩の扉があります。
プリル「どうやらこの奥が魔王のいる広間らしいぞ。」
プリルは思いっきり、あらん限りの大声で叫びました。
プリル「おーい、パズル!プリルだ。ここまで来たぞっ!この扉を開けろーっ!!」
再びあたりが静まり返ったとき、岩の扉がゆっくりと開き始めました。
ゴゴゴォー・・・

轟音とともに岩の扉が開きました。
そして、ここが魔王の広間、パズルがいる所です。
プリル「クリスはどこだーっ!」
パズル「フーッ、プリル、
このパズラードにまで足を踏み入れたヤツはキサマが最初で最後であろう。
そして、生きて帰れぬ事を知るのもな。」
プリル「そうはいかない。僕は必ず生きて帰る。妹を助け出して!」
パズル「フッフッフッ、そう上手くいくかな?」
プリル「クリスはどこだ!」
パズル「フッフッフッ・・・」

プリル「ちきしょう、どうしても言わないつもりか。
ならば、戦って倒すのみ!それから見つけ出すだけだ!勝負だ、パズル!」
今まさに、最後の決戦が始まったのです。

プリル「クリスはどこにいる!」
パズル「地獄の土産に良い事を教えてやろう。」
プリル「何だと!」
パズル「フッフッフッ、お前の妹クリスは、もうここにはいないぞ!」
プリル「嘘だ!なぜそんな事を言うんだ!」
パズル「フッフッフッ・・・」
プリル「答えろ!パズル。」
『さっきパズルの言った事は、一体どういう意味なんだ!?』
プリルはあらゆる力の全てで、魔王パズルに果敢に挑みます。
しかし、素手ではとうてい勝ち目はありません。
パズル「どうした、プリル。」
プリル「こうなったら、今あるだけの武器を使うしか無い。でも・・・。」
ユニコーンの剣は、それが光り輝いた時にだけ威力が発揮されるのです。
今はまだ使えません。

ようやくユニコーンの剣が光り輝きました。
プリル「よーし、使えるぞ!」
プリルは、その光り輝くユニコーンの剣を両手で握りしめ、
ジャンプ一番、パズルに斬りつけます。
プリルは再び、ユニコーンの剣で挑戦します。
プリル「やあーっ!」

プリル「ううっ・・・」
皮肉な事に、プリルの剣よりもパズルの手が一瞬速く、
プリルはその鋭いツメによって傷つけられてしまいました。

ユニコーンの剣の光が、次第に薄れてきました。
プリル「このままでは、もうすぐ使えなくなってしまう・・・。」
プリルは思い切って、ここぞといわんばかりに、
ユニコーンの剣をパズルめがけて投げつけました。
しかし、同時に発せられた魔王の魔力波によって、
輝きを失いかけていたユニコーンの剣はもろくも消滅してしまいました。
プリルは魔法の鏡を楯にして、魔王の魔力波を防ぎます。
プリルはとっさに魔王の魔力波を魔法の鏡で反射させました。
すると反射された魔力波は、見事に魔王パズル自身に当たったのです。
パズル「フーッ・・・」
パズルは苦しんでいます。
魔力波の威力によって魔法の鏡が溶けかかり、
もうこれ以上は使い物になりそうにありません。
プリルは魔法の鏡を手放します。
プリル「もうこれまでか・・・。」
プリルが気を許してしまった一瞬、パズルの鋭いツメが目前に迫っていました。
プリル『避けきれない!!』

危機一髪のその時、あの四つ耳ウサギのポトムが自らを犠牲にして、
プリルを救ったのです!
プリル「ポトム!!」
ポトム「うっ・・・プ、プリル・・・あいつの弱点は、闇に隠された足元だ・・・
そこに向かって、セイレーンの聖石を・・・投げろ・・・。」
プリル「ポトム・・・。」
ポトム「・・・こ、これで、僕も・・・君達の・・・仲間だね・・・うっ・・・。」
プリル「・・・ポトム、君ってヤツは・・・。」
ポトム「・・・何をしている!・・・早くっ!・・・」
そう言い残して、ポトムは安らかな眠りにつくのでした。
プリル「ポトムーッ!!」
プリル「やあーっ!!」
プリルは最後の力を振り絞り、妹クリスの唯一の手がかり、
セイレーンの聖石であるブルーの宝石のペンダントを、
魔王パズルの足元めがけて投げつけました。
次の瞬間、轟音と共に魔王の広間全体が崩れ始めました。
ゴゴゴォー・・・

プリル『やったんだ・・・とうとう。・・・こうしちゃいられない!
クリスを捜さなければ。』
「クリスーっ!!」
「クリスーっ!!」
プリルは何度も叫んでクリスの名を呼びましたが、
妹クリスの姿はどこにも見当たりませんでした。
ガサッ・・・
ふいにプリルの背後で音がしました。
プリル「クリス!?」
ラトク「プリル・・・。」
振り向くとそこにはラトクがいました。

プリル「ラトクーっ、無事だったんだね!」
ラトク「プリル、君も・・・。で、クリスは?」
プリル「・・・・・」
ラトク「・・・そうか・・・いや、きっと無事に逃げ出せたんだよ。
どこかに元気でいるさ。」
プリル「・・・きっと・・・そうかも知れないね。」
ラトク「そうさ!いつかきっと、必ず会えるさ!会わなくっちゃ!」

崩れ去った魔王の岩塔の前に佇む二人・・・そしてまた、新たな冒険の始まりです。
プリル『・・・さようなら、ポトム。・・・ありがとう、ラトク。そして、みんな!』

MICROCABIN PRESENTS 「SEILANE」
<スタッフ/STAFF>

プロデュース/PRODUCE
MASASHI KATO/加藤 雅史
メインプログラム/MAIN PROGRAM
KAZUHIKO ITO/伊藤 和彦

サブ&ミュージックプログラム/SUB&MUSIC PROGRAM
HIROSHI YAMADA/山田 浩司
ミュージック/MUSIC COMPOSE
SATOSHI SUZUKI/鈴木 慧

コンピュータグラフィック/COMPUTER GRAPHIC
HIDEYUKI YANAGISHIMA/柳島 秀行
グラフィックデザイン/GRAPHIC DESIGN
ETSUKO TANIGUCHI/谷口 恵津子

サブキャラクターデザイン協力/CHARACTER DESIGN
YOSHINOBU TAKAHASHI/高橋 義信
イメージイラスト/IMAGE ILLUSTRATION
YASUSHI YAMAGUCHI/山口 泰史
MASAYA FUJIMORI/藤森 雅也

協力/SPECIAL THANKS
ADVERTISING AGENCY
(株)放送出版プランニングセンター

企画・設定・シナリオ・キャラクターデザイン・作画・絵コンテ・演出/DIRECTOR
KIMIO KAMADA/鎌田 公夫

企画 制作/PRODUCTION
MICROCABIN/マイクロキャビン
ARROWSOFT/アローソフト

(C)K.K./MICROCABIN CO,LTD/ARROWSOFT 1987

【 お し ま い 】
ゲームを起動した直後に激しい雷鳴がパソコンから流れる。
その他にも小鳥のさえずりや川の流れる音など、
これまでのアドベンチャーゲームでは感じなかった音による臨場感にビックリした。
これについては「サウンドボードⅡ」について解説が必要である。
「サウンドボードⅡ」とはPC-8801FA/MAから搭載された
拡張音源システムボードの事である。
(それ以前の機種でも外部ボードを購入すれば拡張スロットに増設可能)
これまでの音源に比べて、より耳障りの良い音色を表現する事が出来た。
また、わかりやすい違いとしてはADPCMをサポートしていた事が挙げられる。
サンプリングされた環境音やボイスなどを再生できたのだ。
アドベンチャーゲームにおいて音による演出は、極めて効果的である。
PC-8801FAの発売日は1987年10月。
つまり本作は最初期にサウンドボードIIに対応したタイトルであったわけである。
擬人化された動物達の世界で展開するファンタジックで童話的な内容は、
同社の「はぁりぃふぉっくす」シリーズとの類似性を感じさせる。
また、「不思議の国のアリス」や「鏡の国のアリス」から着想したと思われる本作。
マイクロキャビンは1984年にも
「不思議の国のアリス」というタイトルをリリースしており、
この路線にこだわりがあった事が伺える。
しかしアリスからのインスパイアを強くしたあまり、
後半に行くほどにわかりにくいストーリーになっている。
セイレーンの世界はとある人間の夢の中の世界だけど、
セイレーンの登場人物達は実在している?
そしてパズルのいるパズラードは別の少女の夢の中。
パズルを倒すと少女が目を覚まし、現実世界でプリルはクリスに会えた?
プリルもクリスも現実世界ではおもちゃの人形だった?
ちょっと世界観を理解するのには情報が足りない。
ともかく、こういったファンシーなオリジナル世界観のゲームは
当時のパソゲーには珍しく、
本作が出た当時は“アドベンチャーゲームの良心”のような存在感があった。
以後、マイクロキャビンでさえもこの路線は作らなくなってしまったが。
ゲーム中に登場するラトクという人間の少年。
のちにマイクロキャビンがシリーズ化する「サーク」の主人公と同じ名前だが、
おそらく後付で本作から名前を引用したに過ぎないと思う。
というのも、「サーク」1作目には主人公には名前が無く、
ラトクという名前がついたのは2作目からだった。
また、本作のラトクと同一人物であるという公式の記述も存在しない。