アレックスキッドのミラクルワールド
(セガ・エンタープライゼス)
セガ・マークIII/1986年11月1日/アクション/5500円
セガの家庭用ゲーム機「マークIII」。
当時、ライバル機だったファミリーコンピューターは、
「スーパーマリオブラザーズ」の大ヒットで快進撃。
他社のゲーム機から抜きん出て覇権を握ろうとしていた。
セガはマークIIIにもマリオのような代表的なキャラクターが必要と感じていた。
そんな中で生まれたのがアレックスキッドであった。
そのため、ユーザーからも何かと
スーパーマリオブラザーズと比較される存在であった。
だが、本作は最初からそんな命題を達成すべく企画されたものではない。
当初は「ドラゴンボール」のゲーム化として開発されていた。
ところが開発途中でドラゴンボールの権利が取れない事が判明し、
オリジナルの世界観に載せ替えたものである。
そのあたりの行き当たりばったりな展開も実にセガセガしくて良いねw
今回のレビューでは「SEGA AGES」シリーズとしてSwitchに復刻された本作を使い、
「AGESモード」でプレイした。
AGESモードはFM音源版BGMに切り替えられるようになっていたり、
特定ステージの冒頭に静止画が表示されたりするいわば完全版だ。
主人公のアレックスキッドを操作し進める。
ジャンプボタンとパンチボタンという構成。
移動距離によって慣性がつく挙動で、ジャンプに失敗してミスする事が多い。
大雑把に言えば、本作はこのジャンプと移動のクセを制御するゲーム
と言っていいだろう。
ゲームがスタートすると、
ステージはアレックスの移動によって縦や横にスクロールする。
ステージの最終地点にあるオニギリを取るとクリアだ。
(海外版ではおにぎりがハンバーガーに描き変えられている)
ブロックはパンチで壊す事ができ、星マークがついたブロックからはお金が出てくる。
このお金を集めると、ときおり登場するショップで使える。
ショップにはアレックスをパワーアップする様々なものが売っている。
ちゃんとお金を集めて進めて行けば、商品全てを買って進める事もできるだろう。
時間制限も無いゲームなので、じっくりと落ち着いて進めていけば
有利なアイテムも集まるという弱者救済要素にもなっている。
(こういう要素はスーパーマリオには無い点である)
ここで強化アイテムについて触れよう。
まずこちらはパワーブレスレッド。
アレックスのパンチは射程が短いので、タイミングを間違えてミスになる事が多いが、
これを使うとミスするまでパンチから衝撃波が出るようになる。
おそらくこれは孫悟空の「かめはめ波」の名残りだろう。
乗り物に乗って進む事が出来るのも本作の魅力の一つ。
バイクは敵やブロックを破壊して進む事ができる。
プチコプターは空を自由に飛んで進める。
とても気持ち良いシーンだ。
(いずれも赤いボールやダメージゾーンに触れるまで乗ってられる)
これもドラゴンボールで初期に悟空とブルマの冒険で登場した
乗り物の数々が原型なのだろうね。
プチコプターは動力が足漕ぎペダルなのがカワイイ♪
その他にも一定時間敵をすり抜ける、一定時間飛べる、アレックスの分身を放つ、
バリアーを張る、残機を増やす・・といったアイテムが存在する。
これらを使う事で通常アクションでは難解過ぎるポイントも切り抜けやすくなる。
このゲームのボスはジャンケン大王と3人の子分。
名前の通りジャンケンで対決する。
ドラゴンボールで初期に「ジャン拳」という技を悟空が使っており、
これもドラゴンボールの名残りである。
本作はよく出来たゲームなのだが、
ボス戦がジャンケンなのだけは当時から納得いかなかった。
ジャンケンは運の要素でしかない。
どんなに上手く進めても、
運が悪いだけでゲームオーバーになるのはダメな設計だろう。
最初はそう思っていたのだが、何度かプレイしているうちに、
相手が同じパターンでしか手を出さない事に気づく。
つまり覚えゲーだったのだ。
(とはいえ何のテクニックも懐柔しないので良い設計で無い事には変わらない)
道中、水の中を泳ぐシーンが挿入されているのはスーパーマリオの影響が色濃い。
3人の子分をジャンケンで倒していよいよ故郷であるラクダシャンの城へ。
中はこれまでの道中と違って、あからさまにトラップが仕掛けられている上に
部屋が迷路のように繋がっていて迷う。
城の中ではアレックスの双子の兄であるイグルが囚われていた。
このイグルとは前年にマークIIIで発売された
「不思議のお城ピットポット」というゲームの主人公。
「え!?という事は本作以前にアレックスキッドのデザインは存在していたの!?」
と思われるかも知れないが、安心してくれ。
「不思議のお城ピットポット」の主人公は、
アレックスとは似ても似つかない姿をしている。
おそらく本作での登場もこじつけかと思われる。(^^;
このあと、蘇った3人の子分とそれぞれ戦い、
ジャンケン大王の城へ突入。
いよいよジャンケン大王との対戦。
ジャンケンに勝つと襲ってくるのだが、
この位置が安全地帯なので、ここでボコ殴りにすると勝てるw
ルーニー姫を救出。
兄の婚約者である。
最後は特定の順番でタイルを踏むと王冠が手に入る。
ヒントは今まで手に入れたアイテムの中に隠されている。
ゲームの結末はメッセージのみ。
スタッフロールも無し。
開発にはオサール・コウタさんを始め、
のちにソニック・ザ・ヘッジホッグを生み出す中裕司さんや
ファンタシースターシリーズなどのデザイナーとなる
小玉理恵子さんが参加していた事が知られている。
冒頭でも書いたように本作は
「スーパーマリオブラザーズ」と比較される運命を持ったゲームである。
大味な点はあるものの、
本作はスーパーマリオに無い魅力を多く持っている良作であった。
にもかかわらず、世間的認知はついに得られなかった。
それはまずセガマークIIIの“負けハード”のイメージが一つの要因。
そしてもう一つはセガが本気でアレックスキッドを
スターキャラクターに育てようとしなかった事が要因と言える。
セガの本流はアーケードゲーム開発だと思っていた上層部は、
コンシューマソフト開発を軽視。
「落ちこぼれ集団がろくでもないソフトをまた作った」
ぐらいしか考えていなかった事は、
『元社長が語る!セガ家庭用ゲーム機開発秘史』という本を読むと
詳しく書かれている。
こういった要因の薄い海外の方が熱心なファンが多いのは皮肉なものである。
(メガドライブまでのセガゲーム機は、海外では“勝ちハード”なのだ)