魅惑のアドベンチャーブック大紹介(5)「縄文伝説」

~紹介~

 

カッパサイエンス
縄文伝説
著者:小林秀敏
イラスト:やぎざわ梨穂
光文社/690円
初版:1985年12月20日

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縄文時代を題材にした珍しい設定のアドベンチャーブックだ。
冒険の途中途中で縄文時代の豆知識が紹介される学習まんがみたいな作り。
それはこの本が“カッパ・サイエンス”シリーズゆえだろうか?
かといってお勉強ブックにはならず、
冒険読み物としてもちゃんと楽しませてくれる秀作である。
イラストの中から何を選択するかでその番号へ飛んだり、
迷路をたどってぶつかった番号へ飛んだりといった工夫もあって楽しい。
この本の著者は「あらゆるゲームを手玉に取るゲーム人間で、
現在はゲームソフトの製作会社を経営している」と作者紹介にあるが、
ネットで検索してもそういった情報は出てこない。(^^;
イラストは月刊OUTなどで活躍したやぎざわ梨穂先生。
少女漫画っぽい作風で、
アドベンチャーブックらしからぬ力の入った挿絵が本の質を高めている。

このゲームはエンディングまで行きつくと
スコアが捻出されるシステムになっているのだが、
最高得点のルートを探し出すと
バンダイの3Dジオラマゲーム『スーパーハリケーン』が当たるキャンペーン
が行なわれていた。(笑) 

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ちなみに何名に当たるのかまでは明記されていない(爆)
(『スーパーハリケーン』は国内最後の蛍光発光管を使った電子ゲームである)

 

 

~冒頭~

不気味な闇が村全体をおおい、広場のたき火だけが、赤々と燃えさかっている。
炎がゆらめき、一心に中空を見すえる白髪の老女を照らしだす。
その周囲をまるく取り囲んですわる村人たちの表情も、
何かを思いつめたように真剣だ。
こよいは、村の将来を占う大事な晩なのだ。
白髪の老女---そう、彼女こそ村でただ一人、祈りによって神々と交流し、
お告げを村人に告げることのできる巫女であり、
村人たちは、いまやおそしとその言葉を待っているのである。
勾玉の首飾り、貝の腕輪に耳飾りで盛装した巫女は、
目を閉じ、何ごとか唱え、さらに天を仰いで髪を振り乱す。
一瞬、雷鳴がとどろき、巫女はおごそかに口を開いた。
「大いなる試練の時は来たりぬ。森は枯れ、ケモノたちは死に絶える。
村人は飢えてあい争い、ついには人と人とが殺しあう世となる。
悪霊がこの世を支配するのじゃ」
「それを防ぐにはどうすればいいのだ」
まだ若い村の族長、オズがたずねる。
フジの山が怒ったように火を噴き、
それからというもの、年ごとに寒くなるいっぽうだ。
山にはイノシシやシカも少なくなり、森のかつての活気がない。
食糧獲得がむずかしくなっていることを、いちばんよく知っているのは彼自身なのだ。
それに近ごろでは、よその国からの無法者が侵入し、村人たちはおびえきっている。
苦しげに巫女は首を振る。首飾りが鳴った。
「うわさに聞く、知恵ある人、そうよ大賢者以外に、わかる者はおるまい」
「では、その大賢者はどこにいるのだ。海人の国か。それとも耳飾りの里か。
どこへなりと行って話を聞いてこようではないか」
「大賢者の守り神は<風>と聞く。とどまることがないのだ」
いらだつオズや村人を制するように、一陣の風が吹きわたり、
ふたたび巫女が立ち上がった。
「火の神と風の神のお告げじゃ。三人の勇敢な男を大賢者探索の旅に向かわせよ。
されば賢き人は姿を現わし、真なる理を授けてくれよう。旅立ちは夜明けとともに」
大賢者とは何者なのだ。だれを三人選べばよいのだ。村人たちは、ざわめきたった。
「みなの者、静かに。神託は下された。お告げにしたがい、
まず私が名のりをあげよう。
村のまつりごとをあとに残すのは心苦しいが、ことは重大だ。
村にふたたび平和を取りもどすため、なからず大賢者を探しだしてくることを誓うぞ。
あと二人、私と行動をともにする者を募ろうではないか」
オズの呼びかけにまっさきに応じたのは、若き戦士、ラキである。
自分中心な性格に難点はあるが、冷静で、
しかも、狩りの腕前は村一番だ。彼の志願に反対する者はいない。
が、そのあとに続く者が出ない。
家族と別れ、危険がいっぱいの旅に尻ごみしているのだ。
「ぼくが行く!」
静寂を破って声を発したのは、タオ、つまりきみである。
きみは、まだ一六歳。成人の儀式もすませていない。
案の定、ラキをはじめとして反対の声があがった。
しかし、きみはがんばった。よその世界を自分の目で見たいと訴えた。
その熱意を認めてくれたのが、オズである。

 

~内容~

主人公は一六歳の少年だ。
冒険をしながら様々な知識や技術を得て事実上成長していく。
ゲーム中は所持品の他に『技術・知識』『守護神の加護』といったものが入手できる。
例えば、『交渉・会話の技術』を得ていれば余計な争いは避けられるかも知れない。
用意されている技術は7種類で全てレベル1~7まで設定されている。
(狩猟・戦闘、採集、交渉・会話、天文・気象、製塩、呪術・儀礼、道具製作)
また守護神は狼、熊、蛇、森、風、火、水の7種で、
それぞれ加護を受けているかどうかだけチェックされる。
体力値などのパラメータはない。
このゲームはサイコロを使用しない。
プレイヤーの判断力でゲームが進んでいくわけだ。
どんな選択肢を選んだかによって『経過日数』が変化していく。
そのとき何日経過したかで分岐する場面もある。
このまま滞在すれば技術を得られるが、日数を費やしてしまう…
といった具合に判断が試される。

 

~補足~

光文社の“カッパサイエンス”シリーズとしては、
アドベンチャーブックはこれ一冊だけらしい。
もともと“カッパサイエンス”シリーズはゲームブックのシリーズではなく、
『数学入門』から『セクシィ・ギャルの大研究』まで
多岐にわたる本をリリースしたシリーズで、
アドベンチャーブックもその一環に過ぎなかったようだ。
ちなみに光文社と言えば、あの多湖輝のロングヒット作『頭の体操』がある。