逐電屋藤兵衛「首切り館」より
(ナグザット)
1990年1月26日/アドベンチャー/6700円
まずは本作のオリジナル版である
「秘録 首斬り館 ~逐電屋藤兵衛~」というゲームについて話そう。
このゲームは1989年に発売されたMSX2用のアドベンチャーゲームで、
俺様がパソコンゲーム雑誌で初めてこのゲームの画面を見たとき
「うわー、なんて魅力的なグラフィックなんだろう!」と思った。
そのキャラクターデザインは劇画調で、
アニメの「北斗の拳2」になんとなく似ていた。
そういうタッチのアドベンチャーゲームは他に無かったし、
何より時代劇というのが唯一無二だった。
だがすぐに購入したわけでは無かった。
当時、MSXは所持していたが、
このゲームはPC88に移植されると広告されていたのだ。
MSXではアクションゲームやシューティングゲームをよく買っていたが、
アドベンチャーゲームは88の方で買っていた。
88に移植されたら、よりビジュアルは良くなると推測していたし、
何より文章を長く読むようなゲームはRGBモニターで遊びたい。
(MSXはテレビに接続して遊んでいた)
俺様は88版を待った。
だが待っても待っても88版は発売されなかった。
88版の発売中止を知ったとき、すでにPCエンジン版も発売されていた。
ここはMSX2版を買うべきか、PCエンジン版を買うべきか・・。
俺様はMSX2版を選んだ。
PCエンジンの方が新しいハードとはいえ、
アドベンチャーゲームはパソコンで遊ぶべきだと思ったからだ。
それにしてもMSXオリジナルゲームが
PCエンジンに移植されるというケースはとても珍しい。
他にあるかな?
PCエンジンどころか、メガドライブやファミコンにも無い気がする。
(ナムコの「バルンバ」はMSX2版がPCエンジンからの移植である)
そんなレアケースの結果を確認するべく、
今回レビューの題材として選出した。
元禄八年江戸―元禄というと華やかな印象があり、よく現代社会と対比される。
しかし「生類憐れみの令」をはじめとする数々の圧政によって、
庶民の生活は決して安閑たるものではなかった。
犬を叩いた科により打首の者、後を絶たず、燕や蚊を殺した者さえ死罪とされた。
人々は、役人や犬目付の影に怯え、野良犬に食いつかれても叱ることができず、
ただ逃げるばかり…
五代将軍、綱吉(犬公方と呼ばれた)の圧政が進められる一方、
過って犬などを傷つけてしまった者や
幕府への批判者として目を付けられた者の中には江戸を逃亡する者も相次いだ。
彼らの逃亡先は、水戸領内。
幕府に対し隠然たる権力を持つ「水戸の御老人」が唯一、
水戸領内でのみ「生類憐れみの令」を認めなかったからである。
また、逃亡者たちの江戸脱出を助ける「逃がし屋」なる裏稼業が現れ始めたのも、
この時代の必然であったと言えるだろう。
その「逃がし屋」たちの中にあって、
一度として仕事に失敗したことなき手腕により「逐電屋」の異名をとる男がいた。
ある筋では勘当された武家の次男坊だったと噂されてはいるが、
その男の過去は誰も知らない。
ただ、我流の忍法らしきものを操り、困難な仕事を次々とかたずけてしまう。
その男のことを裏稼業の人々は畏敬をもって、こう呼ぶ-逐電屋藤兵衛-と…
「無駄じゃ、お主たちの腕では、拙者の身体に触れる事すら叶わぬ」
「幕府転覆を企む邪教の輩め、道をあけい!」
「おぬし、かなり使うの・・」
「む!何奴!?」
「水戸の手の者か‥‥‥」
「おのれ、姿を見せい!」
「若いの、名乗るが良い」
「壬生弥一郎」
「よくぞこの館まで辿り着いたものよのう」
「貴様‥‥この者どもの頭と覚えたが」
「じゃとしたら‥‥」
「‥‥斬る!!」
「フォッ フォッ フォッ‥
壬生弥一郎とか言ったな‥‥おぬしは‥‥死ねい!」
「そっ その顔は‥‥!?」
「妖術、呪縛妖影斬!これで飾り干し首がまた一つ増えたわ フォッ フォッ フォッ‥」
まずは主人公の自己紹介から始まる。
松尾芭蕉から依頼を受ける。
材木問屋の娘お志津を水戸へ逐電させるのだという。
ところがお志津は神隠しにあっていた。
まずはお志津の行方を探すところから始まる。
頼れる仲間であるひょう吉と合流。
ここでゲームシステムについて少しだけ説明しよう。
場面ごとに選択肢が表示され、
行動を選択するオーソドックスなタイプである。
一般的なアドベンチャーゲームというと、
移動できる場所が複数あって、
そこを探索しながらストーリーが進む手がかりを見つける・・
といったものだと思うが、本作はほぼ一本道だ。
フラグが立つと「いどう」で的確に行くべき場所が示される。
アドベンチャーゲームとして迷う箇所がほとんど無く、
エピソードを楽しむ電脳紙芝居の色合いが強い。
お志津と合っていた平八という男の長屋で襲われた藤兵衛。
なんとか返り討ちにするが、平八はすでに殺されていた。
その後、水戸の御老人(たぶん水戸黄門?)の使いである佐々木と合流。
佐々木の話では、お志津は邪教団の儀式のために誘拐されたものであり、
その邪教団の頭は来留須という妖術を使う男らしい。
そして平八と関わりのある男・竹居を調べる。
そして邪教団の儀式には三人の娘が必要である事を知る。
捜査の過程で殺されていた男を発見。
ここで面白い仕掛け。
男の「人相書き」を顔パーツの組み合わせで完成させる。
「スナッチャー」にもこんなギミックあったっけな。
殺された男の足取りをおって吉原へ。
男を知る女郎と話をするうちに一夜を共にする事になる藤兵衛。
(だが、そういうグラフィックは一切出てこないw)
三田村という男は来留須の手下だが、娘である秋乃を逐電させて欲しいという。
お志津、すでに神隠しにあった浅草寺の元締めの娘ゆり、
そしてこの秋乃の3人が来留須の狙いだった。
来留須との対決のとき迫る。
だが来留須に立ち向かうには対抗できる能力が必要だ。
藤兵衛は来留須に術を授けたという玄心を訪ねた。
だがすでに玄心は来留須に殺されていた。
そこには玄心の娘・瑠璃が残されていた。
玄心の隠したアイテムを探し出す事になる。
玄心の霊を呼び出して謎が解明する。
藤兵衛は瑠璃とともに三田村の屋敷に戻る。
秋乃は既に拐われ、三田村は息を引き取った。
来留須のいる“首切り館”が中野村のはずれにある事を知った藤兵衛。
館の中はすでに儀式が始まろうとしていた。
そして魔物に魅入られていた来留須との死闘を繰り広げる!
~エピローグ~
藤兵衛
「その後の事を掻い摘んで話そう。
お志津は、何事も無かったように井萩屋へもどった。
もちろん、消えちまったときと同じぐらいの大騒ぎになり、
それから三日というもの、あっちこっちの瓦版屋におっかけられて、
大変だったそうだ。
ゆりも無事、精蔵のところへ帰った。
精蔵のおやじさんの喜びようったら無かったぜ、
挙句の果てに俺を跡継ぎに‥‥とか、言い出したんで、あわてて逃げたよ。
秋乃‥‥父親の三田村があんなことになって、あの娘には気の毒だったな。
その事を佐々木に話したところ、水戸であずかりたいと言い出した。
まあ、江戸を離れた方が、あの娘にも良いかも知れねえ。
そんなわけで、秋乃は佐々木とともに水戸へ旅立っていった。
そして、瑠璃は‥‥」
藤兵衛「行くのか‥‥」
瑠璃「吉野に父上の知り合いの有名な陰陽師がおる。その者のもとで修行を続ける」
藤兵衛「そうか‥‥達者でな」
瑠璃「ところで、籐兵衛どのに渡したいものがある」
藤兵衛「ん?なにをくれるんだ?」
瑠璃「この呪符を‥‥」
藤兵衛「これは?」
瑠璃「きっと、役にたとう」
藤兵衛「なんのご利益があるんだ?」
瑠璃「縁結びじゃ」
藤兵衛「んなに!?」
瑠璃「籐兵衛どのも、もう、身をかためても良いのではないか?」
藤兵衛「ちえっ、嫁さんなんかをもらったら、早くぼけちまうじゃねえか」
瑠璃「フフッ、籐兵衛どのらしい‥‥ん?どうしたのじゃ?」
藤兵衛「い、いや、おめえが笑うのを初めて見たからよ」
藤兵衛
「‥‥と、言うわけで、この事件は終わりだが、
“生類憐れみの令”なんてものがある限り、俺の仕事が無くなる事はねえだろう。
またなにか、奇妙な事件が起こったときに、おめえさんと会えるかも知れねえ。
じゃあ、あばよ!」
ぷろぐらま
きりこ
みっく
とんがり
とうきょ うぶんめい
おんがく
きーす
え
うめまろ あーるえっくす
きしし
のんじ
きゃくほん
いわい じゅうろう
ほとんど詰まる事のないゲームではあったが、
即ゲームオーバーの箇所や、
選択を間違えると永遠に先に進めないハマりの箇所があるので、
パスワードは細かくメモをとっておこう。
(選択肢「にっき」があるシーンはパスワードが見れる)
本作を開発したのはMSX2版と同じBIT2(ビッツー)らしい。
(エンドクレジットでも開発スタッフが同じ事を確認)
ところがこの会社の情報は全然ネット上に転がっていない。
いつ頃まで活動していたのか?とか。
「ピンクソックス」というエロディスクマガジンを出していた
ウェンディマガジンはBIT2の18禁ブランド名らしいけど。
さて、PCエンジン版の移植内容について。
まずビジュアルだが、MSX2版の画像を流用するのではなく、
同じ原画を元に描き直しているようだ。
MSX2版に比べてPCエンジン版はビジュアルが小さく、
デッサンが簡略化されているように思える。
また、同じシーンでもPCエンジン版は絵が間引かれていたり、
アニメーション表現が無くなっていたり、
全体的にPCエンジン版はビジュアルの魅力が落ちている。
▲PCエンジン版で間引かれたビジュアル(1)
▲PCエンジン版で間引かれたビジュアル(2)
またエピソードはかなり省略されており、
以下はMSX2版のマニュアルに掲載された登場人物だが、
薬屋蚤助、傀儡師邪海、猿使いの張、邪剣士暗月斉、
護持院隆光・・というキャラはPCエンジン版に一切登場していない。
このことからも、PCエンジン版は
シナリオがかなり短く編集された事が伺えるだろう。
タイトルがMSX2版のままでなく、
「逐電屋藤兵衛「首切り館」より」にしたのも、
あまりに原作と内容が違うためだろう。
こうなった理由は推測しやすい。
PCエンジンのHuカードでアドベンチャーゲームを作ろうとすると、
容量があまりにも足りない。
アドベンチャーゲームの魅力に直結するビジュアルとテキスト量を
極端に少なく設計しないと収まらない。
この問題はPCエンジンにCD-ROMが発売された事で解決し、
多くの名作アドベンチャーゲームを生み出すのだが、
よく考えたら本作が発売した年にはすでにCD-ROM登場から1年以上経っており、
あえてHuカードでこのゲームを出したあたり、
あまり力が入ったタイトルでは無かったのではないかと思える。
余談だが本作はPC9801でリメイクされているのだが、
タイトルが「逐電屋藤兵衛 秘録 恥辱乃館」。
そうエロゲーなのである。
北斗の拳みたいな劇画調の時代劇でエロゲー・・
食い合わせ悪そうだなぁ(^^;
一度内容を見てみたかったが、もうプレイする機会は無いだろうなぁ。
(試しに動画検索してみたが、このゲームを取り扱っている人はいなかった・・)