88ゲーム回想録(49)「アンジェラス ~悪魔の福音~」


アンジェラス ~悪魔の福音~
発売元:エニックス
発売時期:1988年7月
定価:8200円
対応機種::PC-8801mkIISR以降
ディスク4枚組
サウンドボードII対応

1987年に「ジーザス」という傑作アドベンチャーを生み出したエニックス
これによりエニックスは、一流の人材でチームを組ませ、
質の高いビジュアルと演出、完成度の高いBGM、展開の面白いシナリオ、
といったものを組み合わせる事で
ストーリーを楽しませるアドベンチャーゲームの形を確立した。
そしてエニックスパソコンゲーム事業から撤退する1990年前半まで、
何本かの傑作アドベンチャーゲームエニックスから誕生したのである。
そのうちの1つが本作「アンジェラス ~悪魔の福音~」だ。

グラフィックはアニメ「ダーティペア」のキャラクターデザインや
うる星やつら」の作画監督などを務めた土器手司さんを起用。
また、BGMはすぎやまこういちさんが作曲するといった豪華な編成であった。

本作は88版発売後、MSX2版、FM77AV版、PC98版が順次リリースされている。

 


「ここに書かれている通りだ… …あったぞ…」
「無駄な口をきくな、取れ」
「だが、大変な事になるかも知れない」
「ここまで来て何を弱気になってるんだ」
「もういい、行くぞ」
「忘れるな、これでわれら3人は……」



 

ペルー


大統領「我がペルーにとって、この度完成したこのダムは誇りとなり、
これから先、多くのエネルギーと富と繁栄を国民にもたらすだろう。
だが我々は忘れてはならない。
その為に払われた多くの犠牲を…そして友邦国たちのかけがえのない協力を…」


司会「ここで工事に多大なる技術協力をされた、
バイエルン建設の副社長シュミット氏よりご挨拶を頂きます。」


シュミット「このダム建設に参加できたことは
一人のドイツ国民としても喜びであり……」


シュミット「うっ……う…ぐっ…」

 

日本


美春「……なのよ。」
エイミ「えー本当に!美春もなかなかやるわね」
美春「でしょ……」
美春「……エイミ、いよいよ明日、アメリカに帰っちゃうのね」
エイミ「ええ。でも、やっぱり日本に来て良かったわ」
美春「また日本に来られそう」
エイミ「わからないなあ。でも、また来たいわ」
美春「その時はBFも一緒にね。」
エイミ「戻ったらいつもの様に手紙を書くわ」
美春「じゃあエイミが先ね……」


美春「あらエイミ、どうしたの?」
エイミ「……急に……胸が苦しくなっ……」

 

エリスの自宅

エリス「ハロー、……あ、ブライアン?」


エリス「……というわけでね、出張中で悪いんだけれど大至急こっちに戻ってきて!
エッ?無理ですって、ふざけないでよ!!
原因不明の奇病が突然日本とペルーで発生したのよ。

それもね、調べてみるとほぼ同時刻らしいの。
絶対何かあると思わない?すごい特ダネになるわよ。
私も今から編集部に行くから、ブライアンも早く戻ってよ、いいわね」

 


「私の名はブライアン・パール、ロンドンの新聞社に勤める科学部記者だ。
今回もまたエリスの強引な押しに負けてしまい、
原因不明の奇病を調査することになった。」


「まあ、もともとはミステリアスな現象には興味があるから特に問題は無いが……
それにしてもエリスのやつ……」

ここからプレイヤーの行動をコマンド選択出来るようになる。
コマンドは全てファンクションキーに以下のように設定されている。

移動、見る/調べる、話す/聞く、考える、見せる、
取る、電話する、持ち物、セーブ、ロード


コマンドを選択すると候補の名詞がファンクションキーに並ぶので選択する。

>見る 雑誌


ブライアン「ペルー在住の占い師デュマの記事が載っている。
彼女の存在自体が伝説的で居所もはっきりせず……か」

>見る 隣の席
ブライアン「僕がニューヨークから乗った時にすでに座っていた紳士だ。
この便は確かペルー発ロンドン行だったはずだから、
隣の紳士はペルーから乗ったんだな」

>見る 窓の外
ブライアン「窓側じゃないとよく見えないな、でも雲を見てもしかたないか」

>見る 機内
ブライアン「そう言えばエドガーも学会の帰りだとかいって、
この便に乗り合わせたっけ、

ロンドンについたらゆっくり話でもしたいが彼も忙しい男だからなあ…」


ブライアン「あの失礼ですが今何時でしょうか」
隣りの紳士「えっ、あ、11時27分ですよ」
ブライアン「ありがとうございます。
ニューヨークから出張の帰りなのですが
慌てて出て来たので時計を忘れてしまって……」

隣りの紳士「いえ……」
ブライアン「あ、失礼しました。僕はブライアン・パールと言う者です。
だいぶお疲れの様ですね」

隣りの紳士「………」
ブライアン「ペルーからお乗りなんですか」
隣りの紳士「ああ……長旅だからな、疲れてるんだ」
ブライアン「ペルーにはお仕事か何かで?」
隣りの紳士「まあ、いろいろさ」
隣りの紳士「おや?その記事はデュマじゃないか?」
ブライアン「この記事が何か?」
隣りの紳士「その占師なんだが……ちょっと見せてもらえないかな」
ブライアン「どうぞ御覧になってください」
隣りの紳士「すまんな……ふむ、デュマか、9割の的中率とはふざけてるな」
ブライアン「デュマの事、ご存知なんですか?」
隣りの紳士「一度占ってもらった事があるんだ」
隣りの紳士「あっ申し遅れたが、私はガルン・ドッペス。
リマで、ある大工事に関わっていたが急用でドイツに帰るところだ」
ブライアン「急用とは?仕事かなにか…」
ガルン「いやいや私的な事だよ。友人がちょっとね……」
ブライアン「どのような工事に関わっていたんですか」
ガルン「ダムの建設です。工事の方は無事終了したんだが……」
ブライアン「リマのダム建設……ひょっとしてピラミッド移転の?」
ガルン「ほう。よくご存知ですな。昨日がその落成式だったんだよ」
ブライアン「落成式にはあなたも御出席になられたんでしょう」
ガルン「いや、もちろん。立場上出席しないわけにはいかんのでな」
>聞く デュマ
ガルン「彼女はね、私のことを呪われているなんていいましてね……
このままでは呪い殺されるなどと……まあたわ言だよ」
ブライアン「呪い殺されるとは穏やかじゃないですね」
ガルン「何でも私の持ち物に原因があるみたいなこと言ってて、
それを手放せば開放されるとか」

ブライアン「その持ち物とは何なのですか?」
ガルン「……大体呪いのかかった物なんてこの文明社会に……考えられんな!」
ブライアン「僕は超自然現象に興味があるもんで、
呪いなんて聞くとつい好奇心が湧いてくるんですよ」
ガルン「くだらん、実にくだらんよ…だいたいあれがそんな……」
ブライアン「えっ何ですって?」
ガルン「いや、何でも……」
>聞く 落成式
ブライアン「会場で一波乱あったと聞きましたが……
まさか、どなたか亡くなったとか……」

ガルン「君!君は一体何者なんだ!何だってそんな事を……」


ガルン「うっ……ぐっ」
ブライアン「どうなさったんですか」




ブライアン「ガルン氏が突然変貌して倒れた……いったい何が起こったんだ」


ブライアン「手足も完全にただれて変色してしまっている…
病気なのだろうか、まるでミイラのようだ」

 

・・と、こんな感じでストーリーが展開していく。
世界各地で発生した謎の奇病という衝撃的なオープニングから始まり、
ブライアンとエリスがロンドン、ペルー、東京、西ドイツと、
世界をまたにかけて真相を解明していくオカルトミステリーになっている。
ご覧のようにどのシーンも繊細に描き込まれたビジュアル
シーンを盛り上げる緊迫感のあるBGMが魅力を高めている。

 

メインプログラム
ブロークン・ハート

サブプログラム
おちゃっぴー

進行
宮島 靖

進行アシスタント
小俣 健

原案
会川 昇

脚本
伊藤慶子

キャラクターデザイン
土器手 司

原画
土器手 司

コンピーターグラフィック
太田 貴

画面構成
太田 貴

音楽
すぎやまこういち

音響効果
田口 泰宏

プログラムアドバイス
望月 敬三

タイトルデザイン
太田 貴

マニュアル編集
日下部 麻利

マニュアルイラスト
狩野 健二郎

パッケージデザイン
米田 喬

プロデュース
伊藤 慶子

協力
雅 孝司
正木 範和
曽根 康征
狩野 健二郎
菊本 裕智

 

本作のマニュアルにはこのように書かれている。

基本的には、謎を解くのを目的としたゲームではありません。
映画が大好きなプロデューサーが、
アドベンチャーゲーム好きのユーザーのために作ったゲームです。
映画や推理小説をドキドキしながら見るように、
「アンジェラス」にも取り組んで欲しいと思っています。
小説のページを1枚1枚めくるように、じっくりと楽しんでください

つまり本作は意図的にストーリー主体のアドベンチャーゲームとして作られた
ビジュアルノベルの祖先のような存在なのである。
だがそれを目指すにはまだまだ多くの課題を感じる。
フラグを見つけるまで選択肢を試し続けるわけだが、
結果として同じセリフを何度も読む事になる。
セリフが流れるたびにキャラクターが口パクするので、
それが終わるまでテキストを飛ばす事が出来ず、
ストーリー展開を楽しむよりも、
先に進まない事の単調さが勝ってしまう。

ゲームを一度クリアすると、ゲーム部分を遊ばずに
最初から最後までのストーリーを鑑賞できる
「アプリケイション・システム」というのが利用できるようになる。
だがこのモードにしても、
口パクに合わせてゆっくり表示されるテキストを延々と読む事になり、
エンディングまで眠気を抑えて到達する事が難しかった(^^;

※恐ろしい事にこのモードにはポーズ機能が無く、
エンディングまでトイレにも行けない(鬼)

 

さて、このゲームだが、エンディングまでにはられた様々な伏線も回収せず、
思わせぶりなシーンで「このあとどうなるの?」という
未完の状態で終わる。
そう、続編ありきの構成なのである。
そして続編は発売される事は無かった。
その結末はストーリー主体であった本作の評価を大きく下げる結果となった。


最後に発売中止となった続編「アンジェラス2 ホーリーナイト」について
情報をここに残しておきたい。

 


主人公は前作と同じく記者のブライアン・パール。
前作の事件のあと、ブライアンとエリスはロンドンを立ち、
ニューヨークで結婚式を挙げた。
それから2年の年月が過ぎ、またしても奇怪な事件に巻き込まれていく。


ニューヨークにオフィスを構えるブライアンは、
ニューズマガジン社の副編集長を務めている友人リックから、
雑誌記事の依頼を受けて生計を立てていた。
リックは最近ニューヨークで多発している
「謎の人物からの投書による予告付き連続殺人事件」の取材をブライアンに頼む。
しかしブライアンは被害者たちの死因が前作の事件と同じようだという理由で、
この依頼を断ってしまう。
またもや奇怪な事件に巻き込まれるかもしれないと、1人苦悩するブライアン。


ブライアンがわが家に帰宅すると、
昔、恋心を抱いていたイザベルからの手紙が届いていた。
手紙の内容はブライアンとの再会を希望するものだった。
翌朝、ブライアンたちがテレビのモーニングショーを見ていると、
デボラ・スミスが考古学者であった亡き夫の貴重なコレクションを集めて
個展を開くというニュースが流れていた。
デボラの個展を取材できるように掛け合うブライアンに、
リックは一通の投書を手渡す。
その投書は次に起こる殺人事件の予告で、
今度はブライアンとエリスの結婚に立ち会った牧師が殺されると書かれていた。
ブライアンは急いで教会に向かったが、すでに牧師は殺されたあとだった…。
謎の連続殺人事件が自分の身近な人物にまでおよんだことにより、
この事件の取材をすることに決めたブライアン。
しかし、ブライアンに関わった人達が次々と無残な死をとげていく。


調査を続けていくうちに、この事件の裏で暗躍する邪教集団や、
復活した邪神セヴァの存在を知ることになる。

 

前作の登場人物も含めて絵柄が変わっているのは、
キャラクターデザインが土器手 司さんから、
機動戦士ガンダムΖΖ」や「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」などの
キャラクターデザインを担当した北爪宏幸さんに変わったためだ。
またBGMを担当したのは古代祐三さん
シナリオは「ジーザスII」でもシナリオを担当した六月十三さんが担当するという、
前作にも劣らない精鋭チームが編成されていた。


発表された数少ないプレイ画面によれば、
1作目同様にファンクションキーに登録されたコマンドを選択するタイプの
オーソドックスなアドベンチャーゲームスタイルである事がわかる。


画面を見る限りは98向けに開発されている模様で、
どちらにしても88版は作られなかったのかも知れない。

やがて「アンジェラス2 ホーリーナイト」のパソコン版は発売中止となり、
プラットフォームがPCエンジンに変更となった。


そんなPCエンジン版も発売される事は無かったのである。
このゲームそのものがオカルトになってしまったという顛末。