88ゲーム回想録(12)「ザ・ブラックオニキス/ザ・ファイヤークリスタル」

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ザ・ブラックオニキス
(BPS)
1984年1月/RPG/7800円

 

「RPGはストーリーが重要」と話す人は多い。
だが俺様が初めてRPGを遊んだ頃、RPGにストーリーなんて無かった。
RPGはファンタジー世界の冒険を追体験する遊びであり、
キャラクターの成長がその主軸であった。
なので俺様には
「RPGにとってストーリーはフレーバーでしかない」
という考えが植え付けられている。
そんな俺様が初めて遊んだRPGというのが
リザード」であり、「ザ・ブラックオニキス」であり、「ハイドライド」だった。

 

日本全国にRPGを普及したファミコンの「ドラゴンクエスト」は、
RPG初心者に受け入れられるように、
海外の代表的RPG「ウルティマ」と「ウィザードリィ」を
シンプルに再構築したと言われているが、
それよりも前に本作は、
「RPGを知らない人へRPGの楽しさを伝えるためシステムを整理した作品」
である。

本作をデザインしたのは、
インドネシア系オランダ人のヘンク・ブラウアー・ロジャース氏。
彼はハワイ大学時代に遊びまくったD&DなどのテーブルトークRPG
コンピューター向けにゲーム化したものを光栄に持ち込んだ。
当初は光栄から発売予定であったが、
光栄社長は「自分の会社を作って売るべきだ」と勧め、
ヘンク・ブラウアー・ロジャース氏は1983年に横浜でBPSを設立。
つまりBPS「ザ・ブラックオニキス」を市場に出すための会社としてスタートした。

 

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物語の舞台となっている「ウツロの街」。
街の中には「ブラックタワー」と呼ばれる漆黒の塔がそびえ立っている。
プレイヤーは冒険者となり、なんとかこのブラックタワーの中に入り、
中にあるというブラックオニキスを入手する事が目的となる。

プレイヤーはこの目的だけを提示され、あとは自由行動。
特にゲーム中にストーリー進展のようなものは存在しない。

 

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まず最初にプレイヤーキャラをエディットする。
最大5人のパーティをここで全員エディットしても良いし、
ゲーム中に出会う冒険者を仲間に誘っても良い。
エディットでは名前、髪型、服装を決める。
職業などパラメータに関わる選択は特に無い。
性別も特になし。

 

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ゲームがスタートすると、そこはウツロの街。
このゲームの世界は全て3Dで表現されており、
東西南北に1ブロックずつ進んでいく事になる。
壁は青、扉は黄色で示されている。

 

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街をウロウロしていると他の冒険者と遭遇する。

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2人に話しかけたら仲間に入ってくれたぜ!

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ウツロの街の中にはマーケットがあり、
防具や武器を買うときが出来る。

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購入するとその装備に合わせてグラフィックが変化するのが嬉しい。
すでにアバターの概念があるという事だ。

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装備を整えたら、いよいよウツロの街の地下に広がるダンジョンへ進む。
地下にはモンスターがウヨウヨいるし、
通路も迷路のようになっていて複雑だ。
地下ダンジョンの入り口は廃墟、墓場、井戸の三箇所。
井戸からはすぐに地下5階までいけるが、
そこにはこのゲーム最強のモンスターであるクラーケンが待ち受けている。
おそらくこのクラーケンを倒せるぐらい強くなったパーティのための
ショートカットとして用意されたものだろう。

 

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バトルは5人のパーティがそれぞれ誰を攻撃するか決めるだけだ。
均等にダメージを与えてもいいし、強そうな奴を集中して狙ってもいい。
魔法とか状態異常とか、そういう複雑な要素は無し。
攻撃力で相手の体力を無くせば勝ち。
攻撃力を上げたければより良い武器を買えばいい。
相手の攻撃を軽減させたければより良い防具を買えばいい。
買い物するにはお金を集めればいい。
体力を上げたければレベルアップすればいい。
そういう基本的なバトルのロジックをシンプルに伝えようとしている。
レベルについても経験値がバーの長さで表現されていて、
バーが端まで到達したらレベルアップ。
とても分かりやすかった。

 

ブラックタワー入り口に入るためには、有名な謎解きが待ち受けている。
イロイッカイズツ
地下6階は様々な色の壁が登場する。
これを正しい色の順番で巡らないと入り口に辿り着かない。
では正しい色の順番とは何なのか?
これは機種により異なり、その法則は「パソコンのカラーコード順」だったりと、
ノーヒントで辿り着くのは不可能なんじゃないか?という意地悪なものだった。


誰でもエンディングに辿り着ける今のRPGと違い、
当時のRPGはチャレンジだった。
クリア時に表示されるメッセージをBPSに送ると、
クリア特典として、実際に黒いオニキス(宝石)が贈られてくるサービスを行っていた。
(作者の父親が宝石商であった事で実現したという)
それだけ作者も「クリアする事は困難だ」と認識していたって事だ。
ちなみにこのサービスだが、
雑誌にキャラクター改造プログラムが載ってしまい、
途中でサービスが中止となってしまった。
夢のある施策だったんだけど、残念な顛末だ。

 

ウツロの街にはゲームをクリアしても最後まで入れない場所が3箇所ある。
そのうちの一つ寺院(テンプル)は、
続編である「ザ・ファイヤークリスタル」を購入すると入る事が出来た。

 

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ザ・ファイヤークリスタル
(BPS)
1984年9月/RPG/7800円

 

「ザ・ブラックオニキス」は国産RPGの始祖的存在であるが、
ソフトウェアを追加する事で世界を拡張する構想を既に実装していた!
なんたる先見性!!
(本来1本で出す予定だったものを分割したというのが実情らしいが)

 

「ザ・ファイヤークリスタル」はさらにチャレンジングな内容だった。
ダンジョンには落とし穴、ワープ床、回転床など、
マッピングを断念したくなる数々のトラップがユーザーを待ち受けていた。
システム的には魔法の要素が追加されたのが大きな特徴。
これまで戦闘の攻防は文字でのみ表現されていたが、
キャラクターを魔法使いに転職させると、
放った魔法が実際にモンスターの元へ飛んでいく
といった演出が追加されたのは大きい。

 

本作の世界をさらに拡張するものとして、
「ザ・ムーンストーン」「アリーナ」という2本のタイトルが予定されていた。
「ザ・ムーンストーン」はウツロの街の外の世界、
「アリーナ」はバトルをメインにした闘技場の遊びが拡張される予定だった。
だが、多くのユーザーを長い間待たせながらも発売中止になってしまった。

 

発売中止と言えば、「ブラック・オニキス・アーケード」という
アーケード向けタイトルも存在していた。
アイレム基盤を使って開発が進められたが、やはり発売中止。
もし市場に出ていたら、
アーケードゲームには珍しいRPGタイトルとなっていた事だろう。

 


全ての構想が実現する前に終焉してしまった本作であるが、
広い世界に放り出されて大きな目的を目指して自由に行動するこれって、
今で言うところのオープンフィールドRPGの雰囲気もあり、
この時代にここまでのものをまとめ上げたのは恐るべきデザイン力だったと思う。
これもヘンク・ブラウアー・ロジャース氏が学生時代にテーブルトークを研究し、
RPGを知らない初心者にどう伝えるべきかを整理できていた所以であろう。