ファイヤープロレスリング コンビネーションタッグ
(ヒューマン)
1989年6月22日/プロレス/6300円
「PCエンジンというハードで凄いプロレスゲームが出てるぞ!」
プロレスファンの友人から口コミ情報が入ってきた。
プロレスもプロレスゲームも大好きな俺様はさっそくそのゲームを買いに行った。
それが「ファイヤープロレスリング コンビネーションタッグ」であり、
それを発売したのは聞いた事のない「ヒューマン」なるメーカーだった。
それもそのはずだ。
ヒューマンはこのゲームが自社販売タイトル第一弾。
それまでは他社の受託開発を行っており、
任天堂の「謎の村雨城」や
バンダイの「SDガンダムワールド ガチャポン戦士」などを開発していた。
プレイしてみたら、本作はとんでもないプロレスゲームだった!
これはプロレスファンでゲームマニアという
両属性を持っている人間しか気づかなかったのだが、
プロレスゲームとして革命的な作品だった。
ヒューマンは任天堂から販売されたディスクシステムの「プロレス」も開発しており、
本作は「プロレス」開発でのノウハウから生み出されたと言われている。
プロレスはゲーム化するのがとても難しいジャンルだ。
プロレスは打撃、投げ、関節というカテゴリーの異なる技を使う他、
ロープワークやコーナーポストからのダイブ、
果ては場外への攻防や二人で一人を攻撃するツープラトンなどが絡み合う。
これをまともにゲーム化しようと思ったら複雑過ぎてアクションゲームにならない。
これまでのプロレスゲームは、プロレスのゲーム化ではなく、
プロレスを題材にしたアクションゲームに過ぎなかった。
つまりプロレスファンが「プロレスを追体験する」というタイプのものでは無かった。
ところが本作は打撃の攻防から組み合って投げる、関節を取る・・
といったプロレスさながらの攻防が再現できる発明的なシステム構成をしていた。
選手同士が接触すると自動的にロックアップ(組み合い)、
3秒ぐらいすると腰を屈めるので、
そのあとにコマンドを先に入れた方の技がかかる。
このコマンドはIボタン+方向、IIボタン+方向、
Iボタン+IIボタン+方向、runボタン+方向、といった組み合わせで技が変わる。
コマンド先取に成功しても、序盤に大技を仕掛けると失敗したりする。
また、技を受けると体力が減るだけでなく、
腕や足の部位ダメージが蓄積されるという、
プロレスの攻防で重要な要素も取り入れている。
画面はリングを斜めから見たクォータービュー。
これまでのプロレスでは表現しきれなかった立体的な攻防を描写できている。
選択できるレスラーは16選手。
オリジナルキャラクターはおらず、
実在のプロレスラーを模したもので構成されていたのも新鮮だった。
(このことからも本作は実在プロレスのゲーム化を目指している事がわかる)
ではここでどの選手がモデルとなっているのかご紹介しよう。
ビクトリー・武蔵(モデル:アントニオ猪木)
冴刃 明(モデル:前田日明)
トミー・ボンバー(モデル:ジャンボ鶴田)
サンダー・龍(モデル:天龍源一郎)
ハリケーン・力丸(モデル:長州 力)
ゾンビ・マサ(モデル:マサ斎藤)
パイレーツ1号(モデル:ビリー・ガスパー)
パイレーツ2号(モデル:ガリー・ガスパー)
スター・バイソン(モデル:スタン・ハンセン)
ビッグ・ザ・グレート・ブル(モデル:ブルーザー・ブロディ)
マスカラ・コンドル(モデル:ミル・マスカラス)
マスカラ・イーグル(モデル:ドス・カラス)
ブラッディー・アレン(モデル:バッドニュース・アレン)
マッド・タイガー(モデル:タイガー・ジェット・シン)
ナイト・ブラスター(モデル:ホーク・ウォーリアー)
アイアン・ブラスター(モデル:アニマル・ウォーリアー)
このゲームはシングルマッチとタッグマッチの両方を遊べるのだが、
タッグチームは固定されていて、自由な組み合わせでは遊べない。
基本的にプロレス界を代表するトップレスラーで編成されているが、
タッグチームのバランスからガスパーズやマサ斎藤が入っているのだと思う。
シンのパートナーは普通に考えたらブッチャーが最適だが、
あんこ型のレスラーはこの時点のファイプロでは表現できなかったため
アレンになったのだと思う。
猪木のパートナーが前田というのも不思議だが、
前田はどうしても出したかったんだろうね。
(レスラーの中でも最強説あったしね)
さて、今回はそんな前田を使ってシングルマッチを遊んでみる。
前述したように前田は強い。
ゲーム序盤から前田の必殺技キャプチュード(投げ技)が成功する。
それだけではなく、キャプチュードで投げたあとにIIボタンで起き上がらせ、
適切な距離からrunボタンを押すと大車輪キックを決める事が出来る。
これを繰り返していると、大車輪キックが連続で成功するようになるので、
ここまでダメージを与えるとフォール勝ちできる。
選択レスラー以外の15選手に勝利するとエンディング。
おーっと!スタン・ハンセンが乱入しトロフィーを奪っていったぁーっ!!
あとを追う前田。
謎のコマンド。
実はこのコマンドをタイトル画面で入力すると、
タイトルロゴの色が変わる。
この状態で2周目が遊べる。
COMがちょっと強いだけで同じ15戦を遊ぶのは面倒臭い。(^^;
15選手を倒すとスペシャルマッチが始まった!
その相手はフェイズという名前で
「ルー・テーズ」をモデルにしたレスラーが相手となる。
さらにテーズを倒すと・・
クラウザーという名前で
プロレスの神様「カール・ゴッチ」をモデルにしたレスラーと対決。
ゴッチに勝つと晴れて真のエンディング。
今度はハンセンの乱入も返り討ちにしてめでたしめでたし。
GAME DESIGN
MASATO MASUDA
HIDEAKI SASAZAWA
PROGRAM
MASATO MASUDA
TOORU HAYASHI
WRESTLER SESIGN
HIDEAKI SASAZAWA
INFOMATION GRAPHICS
YUICHI KOBAYASHI
RYOICHI NAKASHIMA
MUSIC COMPOSITION
CHAPPY HASHIMOTO
SOUND EFFECTS
SEITARO MINAYOSHI
SPECIAL THANKS
TAKATOSHI IYAMA
さて、最後に重要な事を話しておく必要がある。
本作はただの「プロレスファンがプロレスを追体験するアクションゲーム」ではない。
プロレスラーのTAJIRI選手は自著の中でこう語っていた。
「プロレスって、スポーツでも格闘技でもない、表現の世界だ」
「試合においては整合性が大切で、
理にかなっていないことは排除していかなくてはならない」
「リングを支配しているのはサイコロジーだ」
つまりプロレスとは、試合を観ている観客の心理を相手にした表現の世界なのだ。
最初に「プロレスはゲーム化するのが難しい」と言ったが、
実は技のバリエーションが多いからではなく、
サイコロジーとしての本質をゲームに落とし込むのが超絶難しいからなのである。
ファイヤープロレスリングを多くのプロレスファンが遊ぶようになって、
不思議な現象が生まれ始める。
このゲームは、効率的な戦いをすれば
簡単に試合に勝てるパターンがいくつも存在する。
例えばスタン・ハンセンの必殺技ウエスタン・ラリアート。
これは試合開始直後に当てる事が出来る。
これを一方的に連続して当てると勝てる。
対戦ゲームはより合理的な戦法にシフトしていくのは当たり前だ。
だがプロレスファン的には「しょっぱい試合」となる。
プロレスファンはファイプロでより盛り上がる試合を目指すようになっていく。
打撃で間合いを探り合い、小技で相手のダメージを蓄積、
ときおり相手の技を受けてシーソーゲームを演出。
最後には相手の必殺技を寸前で回避したあとに
自身の必殺技を畳みかけてのピンフォール!
…とかね。
そうだ。
「サイコロジーとしての表現者」を追体験するという、
これまでのプロレスゲームでは思いも寄らなかったプレイ体験を
ファイプロは実現したのである。