古畑任三郎(第1期)


古畑任三郎(第1期)
フジテレビ/1994年4月13日~6月29日放送/全12話
演出:星護河野圭太松田秀知鈴木雅之佐藤祐市平野眞
脚本:三谷幸喜
主演:田村正和(古畑任三郎役)

 

第1話【死者からの伝言】
「犬を飼っている人に一言。名前を呼ぶときは“ちゃん”をつけるのをやめて下さい。
“ちゃん”をつけると“ちゃん”までが自分の名前だと思い込んで
“ちゃん”をつけないと振り向かない場合があります。
犬には・・・う~ん・・」

犯人:中森明菜

犯人は少女漫画家、小石川ちなみ。
担当編集者に遊ばれた恨みで、別荘の地下室に閉じ込めて窒息死させる。
3日後の台風の夜。別荘へ戻ったちなみは、偶然発見したと装い警察に連絡。
そこへガス欠で山道に立ち往生していた古畑が訪れる。

薄暗い洋館の中でほとんど二人だけの掛け合いが続く。
舞台劇のような雰囲気で三谷ドラマの旨味が濃縮されている。
そして掛け合いのセリフがいちいち面白くて記憶に焼き付いている。
ちなみ「漫画じゃなくてコミックです」
古畑「コミック?えー、コミカルなものですか?」
古畑「カレーライスとカレー南蛮そばを食べてます。
インド人だってこんな食べ方しない。」
古畑「(Cがつく人物は)加藤茶荒井注しか思い浮かばない、
二人には一応当たってみますがおそらく関係無いでしょう。」

見終わったあと
「あー、これは日本版の刑事コロンボをやりたいんだろうな」と思った。
コンセプトがハッキリしているので魅力も伝わりやすい。
また、ただのモノマネではなく、舞台劇的な三谷節で味付けされているから、
オリジナルになっているんだね。
第1話のゲストに中森明菜を持ってくるあたりもスペシャル感あって良かったよ。

解決編:
「今回のテーマはダイイングメッセージ。
やはり被害者はこの中(コミック原稿)に犯人を示すメッセージを残していました。
えー、自分を殺したのが小石川ちなみである事を示す、
十分過ぎるほどの手がかりがこの中にあったんです。

この謎が解けたとき、同時にもう一つの謎も解決されるはずです。
すなわち、被害者を殴った人物は誰なのか?ヒントになったのは・・
これ(紙くず)ですw

古畑任三郎でした。」

 

 

第2話【動く死体】
「新しい機械を買ったときには必ず説明書を読んで下さい。少なくとも3回。
箱から出す前と、セットした後と、寝る前に。一晩置くのがポイントです。
気をつけなければならないのは外国製の機械で・・」

犯人:堺正章

歌舞伎役者・右近が楽屋でもめて突き飛ばした男を殺してしまった。
右近は男が舞台に落下した偽装をする。

古畑の問いかけに饒舌に話す右近だけど、
次々とボロが出るのが痛快。
終盤に向けて焦りが増す堺正章の演技が光る。

解決編:
中村右近はある決定的なミスを犯しました。
彼はあたかもやったのは自分だという証拠をここに残していました。
ヒントはこの(昇降機の)仕組みにあります。
なんだかお分かりになりますか?たぶんわからないでしょう。
ま、考えてみて下さい。古畑任三郎でした。」

 

第3話【笑える死体】
「古くなったストッキングの意外な使い道をお教えします。
切り取ったストッキングをスリッパの上に被せて家の中歩いてみて下さい。
細かーいゴミが面白いように取れます。
ストッキングというのは便利なもので・・」

犯人:古手川祐子

犯人は精神科医の笹山アリ(古手川祐子)。
誕生日を祝いに来た恋人を強盗に見せかけて殺害。
古畑がアリと被害者が恋人関係にあった事を見破っていく過程が痛快。
オーブンのチキンを「デザートですよね」と引っ掛けるところから始まり、
わざと彼女に料理を手伝わせてウソを引き出す。
本作は最初に撮影されたエピソードらしい。
それだけに古畑の絵作りがキレキレで鬼気迫るものがあった。

解決編:
「いやぁ~、これは難しい事件です。
えー、田代を殺したのはアリです、これは事実です。

しかし正当防衛であれば彼女を逮捕する事はできません。
有罪を立証するためには計画的であった事を証明しなければなりません。
実は彼女と田代は深い関係であったという証拠。
昨夜二人でパーティをやったという証拠を見つけなければなりません。
実は・・あったんです。この部屋の中に。おわかりですか?
ヒントは・・東急ハンズ。田代の性格、
そして一番目につきやすいものほど見つけにくいという心理学の鉄則。
そして・・(銀紙を手に取って)コレです。古畑任三郎でした。」

 

第4話【殺しのファックス】
「ファックスで手紙を送るときはワープロ使わない方がいいですよ。
ファックスは原稿が手元に残ります。消しゴムで消せば一枚の原稿用紙が何回も使えます。
ワープロを使わない方がいい理由は他にもあって・・ん~・・」

犯人:笑福亭鶴瓶

今回の犯人は妻を殺した推理作家・幡随院大。
ファックスのタイマー機能を使って誘拐犯をでっち上げる犯行計画だが、
最初から愛人とイチャイチャしているところを見られたり、
犯人に粗さが目立つ回になっている。
解決編での鶴瓶の表情作りも奇妙。

解決編:
「えー、やはり幡随院先生あの女秘書にゾッコンで。
んー、奥さんにバレて揉めてたようです。

これはですね、んーファックスを使った一種の狂言誘拐、
んー推理作家らしい手の込んだ犯罪です。

しかし・・彼は・・大きなミスを犯しました。
全てのヒントは今夜送られてきたこのファックスの中にあります。

解決編はこのあとで。古畑任三郎でした。」

 

 

第5話【汚れた王将】
「パジャマのボタン止めてから全部ズレていた事に気づく事ってよくあります。
パジャマを着るときは必ずボタン下から止めて下さい。
まずかけ違う事はありません。合理的に生きるっていうのはつまりそういう事で。」

犯人:坂東八十助

将棋棋士・米沢八段が竜人戦の途中で犯した封じ手イカサマ。
それを見破った立会人を殺してしまう。
古畑は米沢が投了するまで追い詰めていく。
古畑が自分で書いた字を「自分の字だ」と気づくシーンが好き。
刑事コロンボの吹き替え声優の石田太郎が共演している。
古畑の最後のセリフが「お察しします」である。

解決編:
「思っていた通りでした。
えー試合に使った駒、昨夜、米沢八段の部屋にあったものでした。

今日のポイントは2つ。まず、米沢八段が使った封じ手のトリック、そしてもう一つ。
なぜ八段は勝てるはずの勝負を捨てなければならなかったのか。
今日はちょっと急いでますんでこの辺で。古畑任三郎でした。」

 

第6話【ピアノ・レッスン
「えー、自分が人に嫌われてんじゃないかって心配してる皆さん、安心して下さい。
そういう場合は大抵本当に嫌われてます。
問題なのは自分が人に嫌われているのがわかって無い人の方で。」

犯人:木の実ナナ

音楽学校の理事であり世界的ピアニストである井口薫は、
恩師の葬儀でレクイエムを弾きたいがゆえに、
心臓の弱かった理事長をスタンガンで殺害。
こうして理事長に代わって井口がレクイエムを弾く事になるが・・。
とにかく木の実ナナのキャラクターが強烈。
こういう女優さん、いま見当たらないよね。

解決編:
「えー井口薫は川合健を殺害しました。
方法はスタンガンによるショック死、証拠はありません、残念ながら。
しかし、彼女は一つボロを出しました。
彼を殺したのは自分であると知らず知らずのうちに告白していたのです。
考えてみて下さい。解決編はCM後に。古畑任三郎でした。」

 

第7話【殺人リハーサル】
「月・・月と地球は約38万km離れています。
そして月は1年に約3cmずつ遠ざかっています。

つまり今日の月は昨日の月より、ほんのわずか遠くにあるわけです。月は・・」

犯人:小林稔

時代劇役者である大宮十四郎は、
スタジオを閉鎖しようとするオーナーの城田春彦を
リハーサル中のトラブルに見せかけて真剣で斬り殺す。
故意なのか事故なのかを立証するエピソード。
犯人が古畑の仕掛けた罠に引っかからなかったり、
ウソの自白をする第三者がいたり、
今泉と蟹丸警部が記者会見で濃いメイクをするコメディパートがあったり、
これまでの回と比べて小慣れてきた感がある。

解決編:
「私の勘が正しければこれで事件は解決です。
えー、大宮十四郎は、明らかに殺意を持っていました。
これは事故ではありません。れっきとした殺人です。
彼の殺意を証明する手がかりは・・(現場で見つけた写真を見せる)おわかりですね。
古畑任三郎でした。」

 

 

第8話【殺人特急】
「車内でリクライニングシートを倒すときは必ず一言後ろの人に声をかけて下さい。
そういった小さな思いやりが旅を楽しいものにしてくれます。
そっ、やっぱり旅は楽しくなくちゃいけません。旅は。(ニコッ)」

犯人:鹿賀丈史

とある病院の外科部長は不倫の証拠を探偵に押さえられ、
帰りの特急内で探偵を薬で殺害する。
偶然車内に居合わせた古畑は、彼が医者である事を見抜き、捜査に協力させる。
実は本作は三谷ドラマ「振り返れば奴がいる」のオマージュ作品である。
同ドラマと同じ役名の鹿賀丈史が犯人で、
事件解決の決め手も「振り返れば奴がいる」だったというわけだ。

解決編:
「ふぅ~・・こういう事もあります。
しかしですね、私はですね、中川先生が殺したって事にはかなり自信があるんですよ。
そもそもこの事件は医学的知識が無いと出来ない犯罪です。
くるぶしの横に静脈があるなんて普通の人、知りませんからね。
あ、そうだ。覚えていた方がいいですよ全国の完全犯罪を企んでる皆さん。ねっ。
えー実はですね、これから一つ実験をしてみようと思います。
中川先生が上手く乗ってくるかどうかわかりませんけども。
事件の再現をしてみようと。

ひょっとするとですね、犯人しか知らない事をつい再現してしまう可能性が、
そうなったらこっちの思う壺です。
まあそう簡単に尻尾を出すとは思いませんけども、
とにかく皆さん、よぉ~く注意して見てて下さい。」
グリーンアテンダント「お下げしてよろしいですか?」
「まだ残ってるでしょ。」
グリーンアテンダント「あ、失礼しました。」
「(コーヒーを飲み干して)えーっと、古畑任三郎でした。」


第9話【殺人公開放送】
「えー、オシャレの鉄則は洋服の色を3色以内に抑える事です。
シャツがブルーでパンツが黒でジャケットが紫の人。
真っ赤なマフラーだけはやめて下さい。友達を無くします。
服の色で思い出すのが・・(息を吸ってカメラ目線)」

犯人:石黒賢

生放送の公開番組で霊能力者がその能力で人の死体を発見した。
観覧に来ていた古畑が霊能力のウソを見破る。
石黒賢の大袈裟過ぎる霊能力者演技が見どころ。
ギャグ一歩手前だw

解決編:
「えー、霊能力がこの世に本当に存在するか私にはわかりません。
しかしただし一つ言える事は、黒田清は霊能力者では無いという事です。
彼は前に死体を見ていた。だからあれだけ詳しい事が言えたんです。
おそらく殺したのも彼のはずです、その証拠に・・、ん~、解決編はこのあとにしましょう。
古畑任三郎でした。」


第10話【矛盾だらけの死体】
「人の心を読むときは相手の目を見て話して下さい。
逆に心を読まれたくないときは絶対に目を合わせない事です。
鼻を見て話して下さい。相手の鼻です。自分の鼻じゃありません。
言葉の裏を読むのが上手い人にありがちなのが・・」

犯人:小堺一機

代議士の愛人を殺害した秘書が、代議士をも撲殺する。
アリバイ工作をするが、穴が次々と古畑に指摘されていく。
「殺したはずの被害者(代議士)が生きていた」というトリッキーなシナリオで、
ミステリーというよりも追い詰められていく犯人のコメディドラマになっている。
小堺一機というキャスティングも適役。

解決編:
「えー。鵜野先生を殴ったのは十中八九、佐古水です。
えー、肝心の鵜野先生の記憶が失くなっているのは痛かったです。
でも。考えがあります。今日は一つ仕掛けをしてみようと思います。
えー佐古水を自白に追い込む為の仕掛けを、
ただし、鵜野先生は記憶喪失状態、仲間に引き入れる事は不可能です。
あなたならどうするか。考えてみて下さい。
古畑任三郎でした。」

 


第11話【さよならDJ】
「走ったすぐ後は息が乱れるものです。30過ぎるとなおさらです。
そういう時は大きく深呼吸をしてゆっくりお茶を飲むと落ち着きます。
しかし、一番いいのは、30過ぎたら走らない事です。」

犯人:桃井かおり

生放送中にDJである中浦たか子が、殺害を実行するアリバイ工作。
桃井かおりのDJ役が圧巻。
本職のDJなんじゃないか?と思えるほどキャラクターが仕上がっている。

解決編:
「おタカさん。実は犯行認めていました、しかも、ラジオの中で!
彼女、自分が犯人であるとほとんど認めていたのです。
ヒントは~、あははは~、(新聞の記事を指さして)コレです。
んっふっふ、古畑任三郎でした。」


第12話【最後のあいさつ】
「えー火事のときは119番。どうして最後が9かご存知ですか?
ダイヤル式の電話の場合、大きな数字の方がダイヤルが元に戻る時間が長い、
それだけ心が落ち着くという事です、
つまり、プッシュホンの時代にはほとんど意味無いんです。
(ニヤリ)古畑任三郎でした。」

犯人:菅原文太

警視庁警視の小暮音次郎が、孫娘を殺した上に証拠不十分で無罪となった男を射殺。
その時間、ホテルで張り込みをしていたアリバイを工作するが・・。
古畑任三郎の世界観とは違う
旧態然とした刑事ドラマの世界へと古畑を放り込んだ異質な回。
菅原文太モスバーガーを「これ美味いな」と食べるシーンがホンワカする。

解決編:
「やはり、生原を殺したのは小暮刑事です。
彼は張り込みを利用して生原を殺害しました。
つまり、小暮警視のアリバイはニセモノです。
彼がどういうトリックを使ったのかもうお分かりですね。
そしてリンゴの謎、これも考えてみて下さい。」
怖い顔の男「誰と話してんだよ。」
「ん?こちら。」
怖い顔の男「納得できねぇなあ。」
古畑任三郎でした。」


~総括~
本作で登場するトリックは「刑事コロンボ」からの引用が多く、
どちらかというとミステリー部分はフレーバーであり、
古畑任三郎の独特なキャラクターや、
コメディ的なやり取りを作りたくて本作を生み出した感がある。
事実、その魅力は多くのファンを生み、
刑事コロンボのモノマネドラマ」という安っぽい評価は吹き飛んだ。

そしてその雰囲気作りに田村正和がもともと持っていた魅力と、
舞台を盛り上げる秀逸なBGMも大きく貢献している。

ドラマの冒頭で古畑がドラマの内容にリンクした小話をするシーンや、
事件が解決する直前に古畑が突然視聴者に向けて語りかけるシーンなど、
演劇的な手法を取り入れたのは三谷ドラマの真骨頂だ。