魅惑のアドベンチャーブック大紹介(6)「ルパン三世」シリーズ

双葉社冒険ゲームブックシリーズとして
ルパン三世」を原作としたゲームブック
1985年~1991年にかけて、なんと全19巻も発売されていた。
以下はタイトル一覧。

ルパン三世 さらば愛しきハリウッド
ルパン三世 ダークシティの戦い
ルパン三世 青の女王強奪作戦
ルパン三世 黄金のデッド・チェイス
ルパン三世 暗黒のピラミッド
ルパン三世 Pファイルを奪え!
ルパン三世 謀略の九龍コネクション
ルパン三世 復讐のチャイナタウン
ルパン三世 灼熱の監獄島
ルパン三世 密林の追撃
ルパン三世 華麗なる挑戦
ルパン三世 九龍クライシス
ルパン三世 黒い薔薇のノスフェラトゥ
ルパン三世 悪党どもの黙示録
ルパン三世 戦慄のサブウェイ
ルパン三世 暁の第三帝国
ルパン三世 AF-1奪回指令
ルパン三世 失われた絆
ルパン三世 戒厳令のトルネイド

制作はいずれもスタジオ・ハード
ルパン三世のオリジナルストーリーが
(しかもゲームブックで)こんなに書籍化しているのは凄い。

また、シリーズ通して挿し絵が頑張っていて、
この手の商品では描き手が自分のタッチで原作キャラを描いてしまう事が多いのだが、
このシリーズはアニメ「ルパン三世」の設定画に
極力似せようとしていて好感が持てた。

シリーズのうち俺様が所持しているのは、
「さらば愛しきハリウッド」
ダークシティの戦い」
「華麗なる挑戦」の3冊。
全巻揃えておけば良かったなぁ・・と今になって後悔している。


~紹介~

ゲームブックシリーズ
ルパン三世 さらば愛しきハリウッド
著者:吉岡 平、高橋信之
双葉文庫/420円

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シリーズ第1作目。
作者はのちにヒットした
宇宙一の無責任男シリーズ」(アニメ「無責任艦長タイラー」の原作)
で知られる吉岡平さん
あとがきを読む限りでは、
吉岡さんがアドベンチャーブックを作るのはこれが初めてだった模様。
(吉岡さんは以前にシミュレーション研究会に在籍していた事もあるらしい)

 

~冒頭~

俺の名は次元大介
これでもその世界じゃ、ちょっとはしれた一匹狼の拳銃使いだ。
スカーフェイス
昔の俺を語るのに、こんなにグッとくる言葉も少ないぜ。
なにしろ暗黒街の顔役ですら俺がポケットに手を入れるだけで
身体をこわばらせるんだからな。
いつ射たれるんじゃないかと内心ビクビクしてやがんだ、奴ら。
それほど死神みたいな顔つき目つきだったんだろうぜ。
仕事にしたって、ギャングの用心棒から狙撃、
破壊工作となんでもござれ。
まったく一触即発の青春時代だったぜ。
まぁ、今は縁あってルパン三世っておもしろい奴と組ませて貰ってる。
片腕というか、相棒というか、まぁ、そんなとこだ。
俺ね昔に比べて殺気が抜けて分別っていうもんも出てきたしな。
これでも結構、奴とは気があってるんだ。
さて、このルパンって男、なかなかに味のある奴でな。
奇想天外で破天荒、
まるでハチャメチャなスラップスティック映画を地で行くような男だ。
まぁ、奴といりゃ退屈はしねぇし、
たまにゃ危ねェ目にあうものの、それもまたスリルってもんだ。
おう、映画っていやぁ、俺たちのハリウッド旅行も、
獲物は映画フィルムだって誰だ。
ま、これについちゃ、後でゆっくり話すとしよう。
ここんとこ俺たちルパン・ファミリーはちょっとした閉店休業って状態だった。
気力、体力ともにまだまだ落ちちゃいねェし、
はっちゃきになって大暴れしてた頃と同じくらいのパワーもある。
五右衛門なんざ身体も持て余して道場でも開こうかってくらいだ。
ところが狙う獲物がねェ。
どれもこれも命がけで盗むほどの価値なんてありゃしねェ。
第一、盗みに必要な動機だって、ここんとこ、とんと御無沙汰だ。
そう、俺たちは金に目がくらんで盗みをやるわけじゃねェんだ。
このあたりが、そこらのチンピラと違うところだな。
で、俺たちゃ日がな一日、のんびりとした毎日を送ってたわけだ。
五右衛門先生は剣の修業、俺は拳銃の射撃練習やら新型兵器の調べだな。
不二子の奴ァ、よくわからねェが新しい獲物探しに飛び歩いていた。
ルパンといえば、何だかわからねェが古い本相手に一日、部屋にこもりっぱなしでな。
そういや、あの本、フランス語やらドイツ語やらで書かれてたなァ。
読めんのかァ、あいつ。
そして、ある日ルパンは旅仕度を始めた。
まあ、仕度ったって持ち物はねェんだが、パスポートだの拳銃だの、
俺たち裏稼業の人間にゃあれこれ準備があるわけだ。
行き先はハリウッド。
ナニッ!俺は柄にもなく胸をときめかしたぜ。
ボギーやメアリー(マリリン・モンローっていうらしいな、日本じゃ)が活躍した、
かの地だからな。
俺は、一も二もなく同行を決めた。
ルパンの奴に文句は言わせねェ。
なんせ俺は奴の相棒だからな。
ただし不二子や五右衛門にゃ内緒ってことになった。
ルパンたっての頼みってのも珍しいんだがなァ……。
獲物は映画フィルム。
奴の話じゃ五十年以上前のモノクロ映画だって話だ。
どうやら、ちょっとしたいわくがあるらしくルパンの奴ァ、
あまり多くを語りたがらねェ。
チラホラと探ったとこによると、そのフィルムは戦前のパリが舞台で、
なかなか貴重な軍事機密ってとこじゃねェかな。
ルパンも俺の話を否定しなかったしな。
まあいい。そんなこたァ、フィルムを手に入れさえすりゃ、すぐわかる。
ルパン・ゴーズ・トゥ・ハリウッドだ!!

 

~内容~

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ルパンはハリウッドに眠る未公開フィルムを手に入れるため、
映画スタジオへと侵入する。
ルパンはスタントマンとして忍者映画に参加しながら、
フィルムのある倉庫へ忍び込む計画を練るのだが、
このハリウッドには、ルパン帝国を抜け出した悪漢達が巣食っていた。
見どころはテレビアニメでもほとんど語られていない
ルパンの両親について語られてるところ。
ルパン二世はアメリカにルパン帝国を広げるために渡米。
アメリカでルパンの母親であるテレーズと出会い、恋に落ちる。
そして未公開の映画に二人で主演していたというわけだ。
(おそらくはルパン正史では無視されている設定だとは思うが)

あとがきでも書かれているように、
この本は物語性を重視して書かれており、パズル性は低い。
パラメータも体力ポイント、武器ポイント、情報ポイントのみ。
シーンの指示に従ってポイントを増減させていく。
分岐にはプレイヤーが選ぶ選択肢の他に
「◯◯ポイントが10以下なら」といったポイントにより分かれるものがある。
ゲームオーバーに辿り着いたとしても、
再チャレンジする場合に戻るシーン番号が書かれている。
アドベンチャーブックの入門編と言えるだろう。

 

 

~紹介~

ゲームブックシリーズ
ルパン三世 ダークシティの戦い
著者:飯野文彦、川崎知子
双葉文庫/420円

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著者の飯野文彦さんは初期にアニメ・特撮・映画などのノベライズで活躍された方。
ゲームブックでは他に「妖魔館の謎」「ガバリン」を手掛けている。


~冒頭~

そこは、闇が支配する暗黒の世界だった。
死に絶えた秩序は邪悪な生命体を産み、異形の悪魔をはぐくむ。
そこは、地の底。魔王の笑いが響く死の迷宮。
無意味なるものは、地上での倫理、秩序、思想、文化、そして正義。

地上。
世界を股にかける大泥棒、アルセーヌ・ルパンの孫、ルパン三世
彼がかつて遭遇した生涯最大の敵“ビッグM”。
人類の歴史に影となり日向となり君臨し続けた複製人間。
ルパンに敗北し、滅亡してなお執念だけが生き続ける。
Mにとって生命という言葉は特別な意味を持たない。
彼の意思と巨大なる権力は、絶える事を知らず、今なお世界を恐怖させる。

 


~内容~

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地底に広がる別世界をひたすら進む冒険アドベンチャーになっており、
ルパン三世としての物語性は薄い。
主観視点の環境対応型アドベンチャーゲーム
ルパンのキャラクターを貼り付けたような内容だ。
方角を選択する分岐がやたら多く、
前作にあったゲームオーバー時の戻り番号指定も無くなっている。
劇場映画「ルパン三世 ルパンVS複製人間」を思わせる設定が出てくるが、
その地下組織の正体や目的なども明確にならないまま脱出に成功して終わる。
(もしかしたら今回読んでいない分岐に書かれているかも知れないが・・)
同じシリーズでありながら、前作とはかなり印象の異なる作品。

 


~紹介~

ゲームブックシリーズ
ルパン三世 華麗なる挑戦
著者:前田達彦、渡部功一
双葉文庫/420円

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~冒頭~

怪盗ルパン三世、ホームズに敗れる!
当地有数の資産家であるカール・ヘルシュマン氏に、
氏の所蔵する時価1万ドルの彫刻
“双子のヴィーナス像”を盗むという予告状を送りつけていたルパン三世だが、
昨夜おそく、ヘルシュマン邸に忍び込んだところを、
待ち構えていた警官10数名に取り押さえられた。
世間をさわがせた予告犯罪も、あっけなく幕となったわけである。
この後、ルパンの一味らしき男2人が銃や日本刀で警官たちに襲いかかり、
犯人ルパンを強奪、逃亡した。
目下、警察が全力をあげて捜査中とのこと。
犯人を取り逃がしたとはいえ、大胆な犯罪を未然に防いだのは、
ヴィーナス像の警備を自らかって出た、
私立探偵ホームズ三世の活躍によるところが大きい。
ホームズ氏は、名探偵の誉れも高いシャーロック・ホームズの孫にあたり、
祖父・ホームズ一世に負けぬ名探偵で、ルパンの計画を見抜き、
貴重な芸術品を盗賊の魔手から救ったのである。
潜伏中のルパン一味が、再び、像を狙って、犯行を計画中との情報もあるが、
記者のインタビューにホームズ氏は名探偵の誇りをこめて、こう答えた。
「ホームズ家の名誉にかけても、ヴィーナス像をルパンには渡しません」
ヴィーナス像は、このあと、来月6日のオークションで競売にかけられる予定だが、
記者は、この輸送車の警備を担当するICPOの銭形警部にも話を聞いた。
「たしかに、ルパンは、一度狙った獲物を簡単にあきらめるような男ではありません。
しかし、心配はいりません。
こちらには対ルパン用に開発した特別輸送車ST-1、
通称ビッグ・パイソンがあります。
ルパン、来るなら来てみろってんだ(笑)」
---マンチス・デイリーニュース紙 10月20日付夕刊---

「ルパン家の名誉にかけて、ヴィーナス像を盗み出します!」
公園で拾った今日の夕刊を、クシャクシャに丸めながら俺は宣言した。
だが、目の前にいる疲れ切った様子の男たちからは、喝采の拍手は起こらなかった。
ヨーロッパ一美しいと言われる、水の都マンチス。
ここはその美人の排泄物が集まる場所、つまり、ゴミ溜めだ。
ここだけは、どんな都市でもご同様だ。
薄暗い照明灯の下で、壊れた家具や電気製品の中に、
うずくまっている俺たちは、ゴミ同然にみじめだった。
「しっかりしろよ!俺たちは、まだ、負けたワケじゃないぞ!おい、聞いてんのか」
俺は、腕のちぎれたぬいぐるみのクマさんを抱いて、
ぼんやりしているヒゲの男の肩を揺すった。
「しゃんとしろ。それでも世界中のガンマンをふるえあがらせた早撃ちの名手か!
おい、次元!」
ヒゲの男はうるさそうに、俺の腕をはらった。
「うるせェ。終わったんだ。今度ばっかりは俺たちの負けだ」
その声に、応えたのは、ヒビの入ったブラウン管を見つめていたもう一人の男だ。
「さよう、これくらい見事に敗れると、かえってせいせいするものだ」
「ばかやろう!やい、五右衛門。お前のよく言う武士の意地ってなァ、
あんなヘッポコ探偵ごときに挫かれちまうもんなのか!」
和服姿のその男が、俺を睨みつけた。
その目が、まだ光を失っていないことに、俺はホッとした。
ゴミ溜めのサムライが口を開いた。
「だが、おぬしとて、我々の計画が、
ものの見事に読まれていたことは認めねばなるまい。どうだ、ルパン?」
確かにその通りだった。
俺たちが、ヘルシュマンの邸に忍び込む経路から、
逃走手段、召使いや警備員を眠らせる方法まで、あの探偵は見抜いていた。
しかも、ごていねいなことに、邸の人間や附近の住人は、
全て警察の人間とすり替わっていたのだ。
悪夢のような昨夜の情景が、俺の脳裏をよぎった。
ギラつくサーチライトの光に照らし出された、ぶざまな黒ずくめの俺の姿。
光を背景に立っている男の顔は、シルエットになって見えない。
小柄だが、スラリとした体型のその男は、
余裕を見せつけるようにパイプをくゆらせている。
横に控えているのは、その仲間なのか、
ガキみたいにロリーポップをペチャポチャなめている。
場にそぐわぬ間の抜けた声で、沈黙を破ったのは、そのロリーポップ野郎だ。
「エヘッ、ホームズさんにかかったら、ルパンもふつうの泥棒さんだド」
「その通りさ、ワトソン君。
みたまえ、彼が自由にしていられる時間も、あとわずかだ」
サーチライトの光が、一瞬、その男をかすめ、刺すような鋭い目を持つ、
色白の若者の顔が浮かんで、消えた。
その口は高慢そうに笑っていた。
この小僧っ子は、俺を見て微笑んでいる……。
「わーった、わーった。確かに、昨夜は大失敗だったさ。だが、まだチャンスはある」
ワザと陽気に俺は言った。
「いいか、よく聞け。あのヴィーナス像は、もうすぐ、オークションに出される。
ヘルシェルマン邸からオークション会場まで、
彫刻を運ぶのは特別輸送車ST-1、
ビッグパイソンだ。

 

~内容~

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第11作目。
3~10作目の内容は知らないが、
さすがに11作まで続くとマンネリ化してきたのか、
変則的な構成がされている。
私立探偵ホームズ三世に守られたヴィーナス像を奪うお話だが、
前半は探索シーンが続くフラグ集めゲームになっている。
行動を自分で選択する分岐は少なく、
「○○を持っていたら→XX ○○を持っていなかったら→XX」
といった条件分岐が目立つ。
そして作戦の準備が整ったと判断したら、作戦結構番号へ跳ぶ。

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これはプレイヤーの意思でどのタイミングで跳んでも良い。
この構成もパソコンのアドベンチャーゲームなら悪くないが、
ゲームブックでやると問題がある。
一番の問題は探索シーン。
終わりのない無限ループになっているから、
何度も同じルートを辿る事になる。
何度も同じ文章を読むのって苦痛だよ。
またこの構成によって、過去に一度起こったトラブルも何度も起こる。
探索シーンは時間が進まないのだ。
さらに作戦決行がプレイヤーの判断なのもマイナス。
作戦準備が整っているかどうかよくわからないのに判断できない。
つまり、用心を重ねた場合、同じルートを何周もしてフラグを回収するしかない。
面白くない行為を長くする事が攻略法というのはダメ仕様だ。
また、フラグ分岐主体にした事で、場面がちゃんと繋がっていない事も多く、
ストーリーも唐突に展開したりするし、知らない事を登場人物がしゃべったりする。

本書は実験的ではあったが失敗作だと思う。
以後、他の巻を買い揃えなかったのは、この巻が面白くなかったからだろうな。